第12話 初登校
天遊学園の校舎を上から見ればコの字になっている。
翔は校門を過ぎ、玄関で靴を中履きに履き替え、教室に向かう。一年生は最上階の四階に位置する。
階段を登り終え、教室に到着した。天遊学園は一学年一五〇人の五クラスある。翔の所属は一年一組である。
初めて教室に入るからと言っても、この男にクラスに馴染めるのか、担任の先生は優しいかなどの可愛らしい不安はない。なにしろ咲良に言われなければ今日も学校をサボタージュしようとしていたほどである。
気怠げに教室の後ろから入り、正面の黒板に記された席順に従い、着席する。どうやら席は名前順らしく、翔は全六列ある席の廊下から三列目、その一番後ろに位置していた。
席に着いた翔は、空のスクールバッグを机の脇にかけ、携帯端末を弄る。ゲームをするのではなく、株価とBBRの確認をしていく。
すると隣の席の生徒から声をかけられた。
「こんにちは。僕は
柊和馬は黒髪の好青年だった。優しそうな目元と爽やかな笑顔が特徴的である。
対して、非好青年・天蓋翔くんは安定の目付きの悪さと乱暴な態度で
「あァ?」
柊を一瞥し、そしてまた視線を携帯端末に戻す。
そこへ
「あー! 翔くんだー!! 同じクラスだったんだね。嬉しい!!!」
長く艶のある黒髪の先端の方をほんのりピンク色に染めた整った顔立ちの少女。肌は白く透き通り、制服越しでもそのスタイルの良さがわかる。
「チッ。咲良、お前も同じクラスなのか……」
「今舌打ちしたでしょ。何さー、あからさまに嫌そうな顔しないでよー。……もしかして照れ隠し?」
「……」
「無言はやめて。一人ではしゃいでいる私がバカみたいだから。せめてなんかリアクションして」
「いや、バカみたいなんて思ってないよ。バカだなとは思っているが」
「なお悪い!?」
などと愉快な会話をしている二人だが、柊は完全に置いてきぼりを食らっている。
それに気づいたコミュ力高めの咲良ちゃんは彼に挨拶する。
「私は赤川咲良です。……で、この態度と目付きと性格が悪い彼は天蓋翔。どうか仲良くしてあげてください」
「お前誰目線だよ。あと性格悪いゆーな。俺は性格良いわ。聖人君主だわ」
「自己評価が高いなー。君で聖人ならみんな神だよ」
「いやいや、よく周りに言われるから。『いい性格してるね』って」
「いや、それ皮肉だしっ!」
柊くん、またしても置いてきぼりである。なので、試しに訊いてみた。
「えーとっ、二人は付き合っているの?」
「ああ、付き合ってる」
翔が即答する。すると咲良が顔を真っ赤にして、たじらろぐ。
「は、はあ? な、なに適当なこと言ってるのかな、翔くん? わ、私たちべ、別に付き合ってないよ?」
もうしどろもどろである。あたふたし過ぎて、逆に嘘をついてるようにすら見える。
「? 結局は?」
二通りの答えに困惑する柊。だが、翔はあっさり
「別に付き合ってねーよ。なんなら友達でも、知り合いでもねーよ」
「友達だし!!」
そう咲良は怒り、可愛らしいパンチを翔に繰り出す。
「はあ、まあいいや。……とりあえず、赤川さん、天蓋くん、これからよろしく」
担任の先生は着物を着た20代前半くらいの美女だった。なぜ着物を着ているのかと男子生徒の一人が訊いてみると『先生は現代文担当ですから』とおっとり答えられ、それ以上訊けないでいた。
そんなこんなで授業。一限目はおじいちゃん先生による数学で、二時限目はそのおっとり着物美人による現代文であった。一限目がそうであったように、今日の授業は今後の授業のことのことを話すオリエンテーションで終わるように思えた。
そんな中、翔は先生の話を聞くふりをしながら、机の下で携帯端末を弄っていた。
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