第11話 朝
青い匂いがする。
チュンチュンと雀が鳴く声が聞こえる。
カーテンの隙間から一筋の輝く線が延びている。
身体が痛かった。翔は目を覚ますと、まず壁にかかっている時計を確認した。
午前四時半。
そして周りを見渡しながら、自身の記憶を探る。
床とテーブルには文字やグラフが刻まれた大量のコピー用紙が乱雑に置かれ、それらのうちのいくつかにはメモが書かれた付箋が付けられている。その中には例の優男との契約書の束もあった。
昨日は、咲良と買い物に行った後、自分の寮の部屋に来た。その後に必要な物を買い揃えるためにまた出掛けた。帰宅後はシャワーを浴びて、必要な情報の解析と精査をしていた。そこまでは思い出せる。
「昨日、盗聴器・カメラの類がないことは一通り確認した。シャワーは浴びた。夜ご飯は抜いたんだっけ。いや、単純に食べるを忘れたのか。……コピー機。わざわざこんなもの買いに行ったんだっけか。……いや、必要だな。さすがにこれらをコンビニのコピー機借りてコピーするわけにはいかないしな」
口に出して情報を整理する。そうすることで思考がクリアになる。
やっと頭が回り始めた。
どうやら翔は寝落ちしたらしい。それもベッドや椅子などではなく、床で寝たようだ。制服の上着だけはハンガーにかけているが、ズボンとワイシャツは着たまま寝たのだろう。ズボンはまだしもワイシャツは皺がついてしまっている。
「シャワー浴びた後、着る服が無くて仕方なく制服を着たのか。……朝ごはんはどうするか。作るのも面倒だから適当にシリアスかなんかで済ませるか。……昨日どこまで作業を完了したか覚えてねえ。朝ごはん食べながらそれを再確認だな」
まずは、と言い翔は着替えを始める。着替えと言っても、皺がついたワイシャツを新しいものに変え、制服の上着を着るだけだが。
(昨日咲良と一緒に洋服買えばよかったな……。外出のときは制服でいいから、部屋着だな。……ジャージでいいか)
そんなことを思いながら翔は着替えを終えた。
部屋に散らばるコピー用紙はそのままにし、彼は携帯端末を掴み、玄関に向かう。
扉の取手に手をかける前に、部屋をもう一度見回す。
広さは教室の半分くらいか。リビング、台所、シャワー室、トイレがある。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テーブル、椅子などは備えつけらしい。全体的に白を基調とした清潔感ある内装だった(翔が散らかしたせいで清潔感が台無しだが)。
部屋を眺めた後、翔は朝ごはんを買いに出かけた。
扉の閉まる音が誰もいない部屋に響いた。
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