第7話 オオカミの腹のなか

 クロックの一部を黄金に変えることを翔に提案した優男は、頼んだアイスコーヒーを飲み終えると三人分の会計を済ませ、喫茶店を後にした。


 そして彼は第五学区に向かう。第五学区は、主に外部から来る観光客用にデザインされている。全体的に煌びやかなところだ。大型客船の停泊場として近くに港が作られ、多くのカジノとホテルが観光客のために建設されている。


 優男は第五学区のホテルのビジネスルームを『仕事』用に使っている。


 彼が使うその部屋は床いっぱいに大量の書類が乱雑に並べられていた。だが、足の踏み場が全くないわけではない。彼が部屋内の移動に使う動線だけには書類が並べられておらず、まるで獣道のようだ。


 優男はその獣道を通り、制服のままベッドにダイブする。


「やっほー! 鴨一匹ゲットー!! それもたんまり葱背負ったまるまる太ったやつだぜー!!!」


 優男改め性悪男はベッドの上で子供のように転げ回る。


 彼が翔に持ちかけた話には悪魔の仕掛けを施されていたのだ。


 彼が翔に渡した書類には小さな文字でこう書かれている。



 『契約更新時に乙が蔵置する甲の財産の所有権は自動的に甲から乙に移行する』



 もはややり方が詐欺のそれである。


 一旦状況を整理しよう。前提として、翔は預けた黄金を契約期間内に自由に引き出しできる。だが、契約期間はそれが終了するまでに契約終了手続きをしなければ自動的に更新されてしまう。ここまでは、奴は翔に説明した。問題はここからである。だが、なんと、契約が更新されたときに翔が奴に黄金を預けたままにしていた場合、その所有権が翔から奴に移るのだ。


「はははははははあー!!! 今回もちょろい仕事だったなー!! 一年後にあいつが契約終了手続きを踏んでいなければ、九〇〇万は俺のもんだー!!!」


 






「とでも思ってるんだろうな、あいつは」



 


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