ロンダ ー決別の時ー
「まぁ! 大変じゃない!」
メリザが嬉しそうに声をあげ、ロマンドの背中をバシバシと叩く。
王都への招待。大変名誉なことであり、一介の国民の身に到底起き得ることではなかった。だがロンダの達成した奇跡を考えれば、当然と言えるだろう。
しかし、ロマンドの顔は暗かった。
「いつ迎えが来るのですか?」
「先程ランバー橋を通ったとのことで、間もなくベントに着く頃です」
「もう? 今日出発するおつもりで?」
「今日、この後すぐにでも」
「それは初耳ですが」
神父の声のトーンは変わらなかったが、反対にロマンドは低くドスの効いた声になっていた。ロマンドと神父間に漂う空気が段々と悪くなっていく。
「きょ、今日は早いんじゃない? 神父様。何もそう急がなくても……それにほら、ロンダも皆とお祝いするでしょう?」
空気を察知したメリザがロンダに話題を向けた。ロンダは大人三人に見つめられていることに気が付いた。
「別に……仲良しの人がいるわけじゃないし」
「そういう問題じゃなくて……」
「ロンダ、急な話で申し訳ない。しかし、
「……知ってる」
「勇者様の出現……貴女が聖女として選ばれたことはこの国全土に知らしめるべき大事件なんです」
神父は先程の演説の時よりも真剣な、鬼気迫る表情でロンダに語りかける。
「
「決めるのはロンダだ」
「そうですね。では、私と王都へ行きましょう。ロンダ」
「ロンダ……」
ロンダは突然の出来事に動揺した。神父に着いていき王都に行くか、それとも両親と一緒にベントに残るか?
今それを決めなくてはならないのか?
ロンダはごくりと唾を飲んで、しかし彼女らしく決断は早かった。
「……王都に、行く」
「ロンダ!」
顔を綻ばせる神父に、少し悲しそうなメリザ。父の顔は……見ることが出来なかった。
「ご両親もよろしいですか? 彼女の意思を尊重するということで……」
「…………ああ」
「ロンダは凄いことを成し遂げたからね。世の中の為になるんならねぇ」
「……行ってきます」
生まれた時から過ごしてきたトレミシアを出て、初めて王都へ向かう。ロンダにとって一大決心である。
世の中の為に……という想いも当然あったが、ロンダにとってこれは僅かばかり当て付けでもあった。
あの時。ベント・デルタに誰が上陸するかで皆が騒いだ時。ロンダは父に上陸してほしかった。娘を信じているのであれば迷わず川を渡れた筈なのだ。
勇者様なら必ず、絶対渡ってくれた。
その思いから、父親に対する反発……何より自分のことを理解して、色々と気遣ってくれる神父となら……上手くやっていけると思った。
「馬車へ案内します。ロンダ、着いてきなさい」
「……はい」
「我々で、救世主となりましょう」
神父は歯を見せてニタリと笑った。
ヒロイン・ビルド・ダンジョン 森林達木 @moribayashi27
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒロイン・ビルド・ダンジョンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます