9F

このフロアの敵は全身が燃え盛る怪鳥であった。


「ケェーーーッ!!」


怪鳥はけたたましく鳴き、洞窟の天井付近を飛び回っている。


燃える体は恐らくファイア無効の耐性持ち。

ついでに飛んでいるから近接での格闘攻撃・武器攻撃も無効。

あらゆる攻撃への耐性を持つ、かなり攻略しづらいタイプの敵だ。


「ダブルアロー!」


「ケェーー!?」


空飛ぶ斬撃、ダブルアローがなければの話だが。


「ゲェーーー!!!」


いくら飛び回ろうと、範囲が強化されたダブルアローからは逃れられない。


数秒のち、怪鳥の断末魔が鼓膜に刺さった。


「お見事でした」


「行こう」


ロンダは涼しい顔で、燃え盛る怪鳥の残骸を横切る。


「……チキン」


怪鳥の残骸が燃えてるのを見て、俺はふと呟いた。


「……温めますか」




俺、茶屋ちゃや薫流かおるの人生を語るには、一行で事足りる。


孤独コンビニ往復人間。


このまま戒名にしたいくらい、スッキリまとまっている。


周囲と合わせるのが苦手だった。

小中高と友達は一人も居ない。

遊びはしないが、さりとて勉強も大して出来ない。


唯一他人に誇れることが、高校の時に始めたコンビニバイトを今も続けていることだけ。

学校と自宅とコンビニを往復する毎日が、気が付けば自宅とコンビニの往復に変わっていた。高校を卒業したとき俺が思ったのは、たったそれだけ。

それ程に、俺の人生は空虚だった。


ゲームは好きだ。特に育成系のゲームが。

育てたキャラクターの数字が増えるのを見ると気持ちが落ち着く。何事かを成した気分になる。

他人と競い合うオンラインのやつは遊ばない。ゲームの世界でまで負けるのはゴメンだ。


何故やる前から負けると決めつける?


だってそうだ。俺が何かをする前から、まわりは既に敗者を見る目で俺を見てくる。

新しく入ってくる年下のバイトも、定期的に入れ代わる店長も、敬語を使っているが内心は俺のことをバカにしている。

バカにしてるってバレてんだから、本当にバカなのはお前らの方だぜ!

そんなこと、一度くらいは言ってみたい。


お喋りで授業の邪魔して怒られてるあいつらの方が、ちゃんと聞いてる俺より友達多いのなんでだろう。

いつも他人の悪口ばっか言って性格の悪いあいつらの方が、悪口言わない俺よりも恋愛してるのなんでだろう。


俺の中で燻り続けていた、人生のテツandガク。なんでだ、なんでだと考えても答えの見つからなかったその問いに。


ロンダと共に戦うことで、俺は生まれて初めて答えを手に入れようとしている。


ロンダに負けられない理由があるように、俺にも負けられない理由が出来た。

俺の求める答えは、きっと勝つことでしか手に入らない。


敗者である怪鳥の残骸を尻目に、俺はロンダのあとを追いかけた。




扉を通ると、直ぐにメッセージウィンドウが表示された。


『レアスキルを獲得しました


 ・魔力消費半分

 ・剣技「リフレクト」習得

 ・「絶対服従」化


 いずれかを選択してください』


嬉しいことに、レアスキルが獲得できるようだ。

だが、「魔力消費半分」は残念ながら不要なスキルだな。

ロンダが使える魔法は「ファイア」しかない。今現在魔力は温存してあるし、それに戦いの主力はダブルアローだ。今更「ファイア」が沢山撃てたところであまり強くない。

よって消去法で、残り二つから選ぶことになる。


残る二つの内……気になったのは「絶対服従」化、というものだ。

効果はおそらくだが、ロンダが絶対服従になるということだろう。

服従、つまり俺の言うことをなんでも聞くようになる。


いいじゃないか。


女に一度も相手にされたことの無い俺が、この世界の中だけでも女を好きにすることが出来る。


俺は迷わずスキルを選択した。

メッセージウィンドウの『剣技「リフレクト」習得』が仄かに光る。


選ぶわけ無いだろ、「絶対服従」なんて。

自分の思い通りになると言えば聞こえはいいが、要はロンダが自分で考えなくなるってことだ。

俺が全部命令して……この先勝てるのかよ。

ロンダの方が俺なんかより、ずっとずっと戦いに関しては上なんだ。

彼女は彼女の判断で戦えばいい。


「絶対服従」なんてワードで惑わして、無駄選択肢を選ばせようとしたってそうはいかない。

俺はそこまでバカじゃない。

「バスト強化」の件は……そもそも選んだのは偶然であって、俺の意思ではないから。それはそれ。


結局選んだのは剣技「リフレクト」。

その剣技がどんな技かは分からない。

だが彼女なら直ぐに使いこなせるはず。これまでもそうだったように。

さぁ、準備は整った。


「ロンダさん、多分ですけど次は」


「大丈夫」


「ですよね」


次は10F。

彼女は言うまでもなく分かっている。

多分居る。


5Fで戦った巨大蜂のように、恐るべき強力な「ボス敵」が。

だがロンダなら、きっと勝てる。

俺も後半は剣技「アロー」を重点的に強化してきた。威力二倍の「ダブルアロー」、範囲強化、そして「リフレクト」。

火の鳥を瞬殺した事実からもビルドの方針は悪くない。


前をいくロンダの足取りはいつもと変わらない。俺はそれを見て安心する。


どんなことになろうと俺は諦めない。彼女と共に、勝利を絶対に掴んでみせる。

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