7F
「ダブルアロー!」
「ダブルアロー!」
「ダブルアロー!」
7F、ダブルアロー祭り開催中。
剣から放たれる衝撃波が敵を次々と引き裂いていく。
ロンダは実に流麗な動きで剣を振るう。まるで踊っているかのように。
ナメクジの怪物やら、あと初めて見るモグラの怪物やらがいたが、ろくに動きを見せぬまま塵となった。
俺はただ棒立ちしているだけ。
扉が出現するのに時間はかからなかった。
俺は小走りに彼女へ近付く。
「大丈夫ですか? 体調とか」
「平気」
ロンダは右肩を回しながら、平然と答えた。
あれだけ剣を振り回したのに、彼女は汗一つかいてない。
無表情さと相まって、彼女がまるで戦う人形のような印象を受ける。
彼女はフロアをクリアしても特に喜びを見せない。
戦うことに真剣……余裕がないとも取れる。
だが、こんなにあっさりクリア出来るんだから、もうちょっと楽に構えたらいいのに。
俺は悠々と扉に向かっていった。
次の階までの通路を歩きながら、俺はロンダに問いかけた。
「あと何階登ったら、出口があるんでしょうか」
「……」
「ロンダさんは随分戦いなれてますが、何か訓練してたんですか」
「……」
ロンダは俺の質問に答えない。
足を止めるでもなく、ただ無視される。
少し前の俺だったら「無視だと、舐めやがって!」と怒り心頭になっていただろう。
だが今は違う。
彼女は俺の事を全く舐めていない。
巨大蜂と戦ったときは、俺の事を最後まで信じてくれた。
それに理由は分からないが勇者様と呼んでくれる。
共に戦ってきたから分かる。
彼女は人より無口で、話すのが苦手なだけだ。
俺と何も変わらない。
俺はもっと彼女と仲良くなるにはどうしたらいいか考えた。
女性との会話では、「話を聞いてあげる」のが大事と聞いたことがある。
だが何度質問しても彼女は何にも答えてくれない。彼女が話し出さないのであれば、何も聞きようがない。
「……ん」
ロンダは右腕を回しながら、少し息を漏らした。
そう言えばさっきから右腕を気にしているようだが……。
「ロンダさん、ここに畳が置いてありますけど」
俺は洞窟内に不自然に置いてある一畳分の畳を指差した。
「マッサージしますか?」
「別に怪我してないし、いらない」
「右腕、何か気になりませんか?」
「……少し、痺れる」
「じゃあちょっと休みましょうよ」
「……うん」
意外とすんなりこちらの意見を聞いてくれるロンダ。
ゆっくりと畳に座り、そして仰向けで寝転んだ。
俺は彼女の右腕に触れ、不馴れながらもマッサージを開始した。
親指で優しく押したり、揉んだりを前腕から上腕にかけてゆっくり施していく。
「痺れ、どうですか」
「……良くなってきた」
刺し傷が治った時点で分かっていたことだが、この世界でのマッサージは全ての傷病に効くみたいだ。
「痺れの原因に何か心当たりは?」
「……多分、ナイトメアの体液がかかった。毒だったんだと思う」
「へぇ……」
そうか、ナイトメアの毒か……。
……って言われても分かりませんて。
「……ナイトメアって、どれのことですか」
「……?」
「その、敵も色々いたので。ナメクジみたいなやつがナイトメア……?」
「全部、ナイトメア」
「えぇ?」
「私達の敵、それがナイトメア」
「そうなんですか?」
「うん」
初耳だ。
要は今日戦ってきた蟷螂の怪物も蜂もナメクジもみーんな「ナイトメア」という奴なのか。
「俺達なんでナイトメアと戦ってるんですか?」
「それは……」
ロンダは少し言葉に困ったようだったが、ゆっくりと答えてくれた。
「トレミシアを助けるには、それしかないから」
「……トレミシアって何ですか?」
「治った」
「えっ」
「治った。早く行こう」
彼女は飛び起きると、右腕を曲げたり伸ばしたりしだした。
そして問題ないことを認めるとそのまま先へ進んでいく。
「えっ、まだ、聞きたいことが」
何というマイペース。
だが今の話は凄く興味深い。俺達には戦う目的があったのか。
「トレミシア」を助けるために「ナイトメア」を倒す。
これだけではなんのことやらだ。
どうやったらもっと話が聞けるだろうか?
彼女の好感度を上げてもっと仲良くなれれば一番だが、それが難しいことは分かっている。
その時、メッセージウィンドウが表示された。
『コモンスキルを獲得しました
・「臥薪嘗胆」習得
・好感度上昇
・体力強化
いずれかを選択してください』
また新しいスキルがある。
「臥薪嘗胆」の習得と……。
「好感度上昇」?
俺はメッセージウィンドウを読み直した。
やっぱり書いてある。
なんだろう。「好感度上昇」って。
「臥薪嘗胆」も謎のスキルだが、俺の目には「好感度上昇」しか映っていなかった。
これまでの法則からいって「筋力強化」ならロンダの筋力が強化される。
「ファイア習得」ならロンダがファイアを習得する。
ということは「好感度上昇」なら。
ロンダの好感度が上昇する。それ以外考えられない。
だが、何に対しての好感度なのか?
内心では分かっていた。恐らく俺に対する好感度なのだということが。
ならばこんなスキル、選ぶ価値無い。
何故なら戦闘に関係の無いスキルだから。
俺はもう、あの巨大蜂戦のような厳しい戦いを繰り返さないためにも、戦闘に関係の無いスキルは取らないと決めた。
そのはずだったが……。
「今、ダブルアローで戦闘は楽勝だ。応急薬だって持っている。戦闘に関係の無いスキルを取る余裕がある」
「好感度が上がればきっとロンダはもっと色々教えてくれる。話が通じないより、話が通じた方がいいじゃないか」
俺の心の声が「好感度上昇」を選ぶべきだと、そう言っている。
選んでもいい、選んだ方が得をする。そうかもしれない。
本当に?
本当にそれでいいのか?
好感度を操作するなんて……人の心を操るってことだ。
これまでの付き合いから、彼女がゲームのNPCとは到底思えない。
そんな彼女の心を操るのはいけないことだろう?
「逆に、好感度を操作できるのはゲームの世界だからだ。ロンダはゲームのキャラクターなんだよ」
「彼女ともっと仲良くなりたいと思っていたじゃないか。ここで選ばなければもう二度と選択肢に表示されないかもしれない」
俺の心の声が尚も囁く。
どうする。
どうすればいい。
俺は、俺が選ぶべきスキルは……。
俺の指がメッセージウィンドウに触れる。
メッセージウィンドウが仄かな光を発した。
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