2F

2Fに上がると、そこも広い空間になっていた。


中央にはさっきも見た虫の怪物が2体いる。


飛んで火に入るなんとやら。


先ほど習得した「ファイア」の試し撃ちにはおあつらえ向きだ。


そう、俺はさっきメッセージウィンドウで『ファイアの習得』のスキルを選択した。


そして確かめたい事、それはファイアがどんな能力なのかという事。


俺は怪物に向けて右手を付き出し、すかさず呪文を唱えた。


「ファイア!」


俺は右手から炎が飛び出すのを待った。


「……」


しかし、何も出てこない。


そういえば、使い方が分からない。


俺と怪物の気まずい沈黙を破るように、俺は声を荒げた。


「フ、ファイアッ!」


だが声の大きさの問題ではないようだ。


「フアイア! ファイヤ! ファ~イア~ッ」


発声の問題でもなさそうだ。


どうしたものかと首を振ると、女と目が合った。


何やってんだお前、彼女の目がそう言っている。

やばい、顔からファイアでそう。


いやそもそも、ファイアなんてするの生まれてはじめてだし。

てか、大体こういうもんじゃん。

呪文叫んだら火の玉が掌から飛び出すもんじゃん。


なんて言い訳してても仕方ない。

折角習得したファイアが撃てないのではこの先の攻略に関わってくる。


心の中で強く念じてみるか。


「……はあっ!」


俺の内なる力よ、あの怪物を焼き殺せ!


その時だった。

ボウッ! と虫の怪物が燃えた。

遂にファイアが出たのだ!


だが、ファイアは女の掌から出ていた。


「ファイア」


女が呟くと、彼女の掌から火球が発射される。


燃えてぬたうつ怪物の腹を、女は剣で突き刺した。


俺が呆然と眺めている間に女は二体目とも仕留め、振動と共に扉が出現した。


「……ファイア」


彼女を真似て呟く感じで唱えてみるも、やはり俺の手からファイアは出ない。


俺が選んだ強化。

『ファイアの習得』とは。


あれは彼女のみの強化らしい。

俺は強化されない、それがこのダンジョンのルール。


つまり、あくまで戦力になるのは彼女だけ。


では俺は見てるだけ?


扉をくぐる。

次のフロアへの途中、またメッセージウィンドウが出現した。


『コモンスキルを獲得しました


 ・「サンダー」習得

 ・体力強化

 ・筋力強化


 いずれかを選択してください』


また選択肢が3つ。

サンダーの習得に身体能力の強化。


体力や筋力の強化。

さっきも似たような選択肢があった気がする。

どれ程の強化なのか、物は試しだ。


俺は『筋力強化』に触れた。


ファイアは駄目だったが、筋力強化なら俺にも効果があるかもしれない。


それに……。


俺は女をチラ見した。


この女は剣士だ。

ファイアに続いてサンダーまで習得したら魔法使いになってしまう。


「今、筋力強化を選んだんですが、それで良かったですよね」


「何?」


「いやだから、スキルを選んだんですけど、貴女が剣士なので筋力強化がいいと思って……」


「行くよ」


女は俺の話に関心を持たなかった。


「……なんだよ」


女の背中を見ながら、気がつくと下唇を噛んでいた。


俺の中で、何かがゾワゾワする。


何だ?

ゲームの世界でも、俺は……相手にされないっていうのか?


俺はゾワゾワした気持ちのまま、次の階段を上った。

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