1F

奥へ進むと、広い空間に出た。


洞窟の天井は穴が空いており、広間の中央には光が差し込んでいる。

そして中央ではがその光に照らされていた。


あれは……なんだ?


俺の前進を女が左手で制した。

代わりに女が前進し、中央にいるへと迫る。


そして。


抜刀。


女は無駄の無い動きで剣を振るう。

一撃目での前足を落とし。

二撃目での首をはねた。


すると洞窟内が微かに振動し、前方に扉が現れた。


女は一瞬こちらに振り返り、そして新たな扉に向かっていった。


さっきは制されたが……今の振り向きは着いてこい、ということだろう。

俺も扉に向かった。


足元には今しがた鮮やかに斬り捨てられた遺体が転がっている。

遠目では何か分からなかったのでよくよく見てみると。


よく見てもよく分からない。

蜂のような顔をして、蟷螂のような前足をしている。

虫の怪物だ。


今更だが……ここは現実世界とは違う場所なのだろうか。


虫の怪物なんて、ゲームの存在だ。


そして怪物を倒したら次の扉が現れる仕掛け。

まさしくゲームに出てくるダンジョンだ。


俺は扉の前に着いた。


「開けて」


女は俺が来るのを待っていた。


ゲーム上の存在。この剣士の女もまさしくそうだ。


現代日本に職業剣士の女なんているわけ無い。


ここはゲームの世界か何かで、脱出するためにはダンジョンの敵を倒すしかない。

そんなところだろうか。


突拍子も無い話だが、俺は容易く飲み込むことが出来た。


問題があるとすれば、俺には戦う力がないこと。


女は一人で戦った。

彼女がそれについて不満をいう気配もない。

だがもし俺が見ていることしか出来ないなら、何故俺はここに居るのだろうか。


「開けて」


女が再度要求してきた。


俺の役割は、彼女の代わりに扉を開けることか?


俺は扉を開けた。


「どうぞ」


女は黙って先に進んだ。


扉の奥は通路になっており、その先には階段が見える。

2Fへ進めるというわけか。


俺は置いていかれないよう、女についていく。


その時である。


突然、俺の目の前にメッセージウィンドウが現れた。


「うおっ!」


俺は立ち止まった。


メッセージウィンドウが現れては、いよいよゲームの世界だ。


「あの、これは何……?」


「…?」


「これです、これ」


メッセージウィンドウを指差す。


女は俺の顔を見つめた。


「早く行くよ」


そして興味無さそうに通路を進み出した。


無視かい。

それともメッセージウィンドウは俺にしか見えないのか?

ひとまず内容を確認する。


『コモンスキルを獲得できます


 ・体力強化

 ・筋力強化

 ・「ファイア」習得


 いずれかを選択してください』


……なるほど。


もはやこの空間がゲーム的な世界であることは疑いようもない。

そしてこのメッセージ。


三つのスキルから一つを選び、選ばれたスキルで強化を行う。


キャラクタービルド系ゲームのシステムだ。


俺はメッセージウィンドウに触れた。


『・「ファイア」習得』の箇所が青く光る。俺の選択が適用されたようだ。


前方を見ると、女は直立して俺がついてくるのを待っていた。


「お待たせしました」


「……」


俺の愛想笑いにも、彼女は動じない。


「……行きましょうか」


「うん」


とにかく、色々確かめたいことがある。

俺達は階段を上がった。

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