第2話 プロローグ2

 燃え盛る瓦礫と、悲鳴と、死体を跨ぎ、ミーゼはひたすら走った。

 武器は何もない。

 端の敗れたワンピースは既に炭で汚れており、流れる汗を拭いながらひたすらに走る。

「私はこっちだっ! 化け物めっ!」

 立ち止まり、叫んだ方向。

 そこにはメカを連想させるような、二足歩行の生物がいた。しかし人間......というには、あまりにも不気味。

 顔には目があり、口があり、鼻もある。

 だが奴の首元、そこには鰓があった。

 皮膚は鉄鋼板の鱗で覆われている。

 人知を超えた、無敵生物。

 魚類の化けの皮......いや、進化系と言った方がしっくりくるかもしれない。

 小型二足砲口〈インドラ〉。

 それが奴の名前だ......。

「これ以上、死人は出させないっ!」

 恐らく彼らは、灰色の空に浮かぶ飛行船から飛来したのだろう。

 この一匹だけでなく、この街の至る所にインドラが投下されている。

「グァァァアアアッ!」

 よだれを撒き散らしながら、手にいた死人を放り投げ、インドラはミーゼの元へ近づく。

 ミーゼもそれに気づき、走り始めた。

 ―――私一人が、この一匹を誘き寄せたところでどうこうできるわけじゃない。けど、私の死ぬ場所ならここでいい。

 決死の思いで、走り続ける。

 樽が大量に置かれた、居酒屋の横を通り抜けようとしたその瞬間―――。

「ぐっ......!」

 木造の壁が勢いよく吹き飛んだ。

 目前にインドラの顔があり---。

「がはっ!」

 頬に衝撃が走り、ミーゼの体がコンクリートの地面に転がった。

 人知を超えた、無敵生物。

 その力は伊達じゃない。

 たったひと殴りで、小柄といえどミーゼのの体が吹き飛んだ。

「グァァァアアアッ!!」

 インドラに感情はない。

 しかしこの状況を楽しむように、インドラの砲口が轟く。

「うぅ......」

 口と頭から鮮血が垂れる。

 目の前がボヤけて、意識もハッキリしない。

 ここまでなのか......。

 姉が目の前で殺され、ミーゼには生きる目的も気力も消滅しかけていた。

 インドラが、手から生やした小型の砲口をリーゼに向ける。

 小型二足砲口。

 その名の通り、歩く砲撃は、決して死というものに躊躇わない。

 奴らは知性がないのだから......。

 細胞に同化したような見た目で、インドラの手から砲口が生えるが、リーゼにはどうすることもできない。

 その時―――。

「ガァァァアアアッ!!!」

 インドラの胸元に、小さなが空いた。

 うめきながら、インドラはその体をくねらせる。

「まったく、近頃のインドラはしぶといものばっかり出てくるので、あたしたちも困っちゃうのよ」

 カチッと、リロードを弾く音。

『コネクト、ベアリングとの接続を確認』

 無機質な機械音が、倒れているミーゼの上で鳴り、続いて発泡音が---。

「グァァァアアアッ!!」

「勝負アリねっ!」

 少女はガッツポーズをして、マスケット銃を降ろす。

 悲鳴を上げたインドラは、そのまま地面に倒れた。

「うーん、少し着くのが遅かったようだけど......お嬢ちゃん、大大大?」

 軍服にミニスカート、綺麗な太ももにはガーターベルトが取り付けられていて、ミーゼをお嬢ちゃんと呼ぶには多少上から目線のような気がする見た目をしている彼女は、ミーゼの手首を触れる。

「まだ息はあるようね......よかった」

 傷と煤まみれのミーゼだが、少女はほっと胸を撫で下ろす。

「さて、緊急で派遣されたのはいいものの......」

 少女は辺りを見回す。

 群衆の叫びと、炎は止む気配がない。

 むしろさっきより状況は悪化していた。

「第二十七区シンクウ......」

 

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