二人の囚人 エピローグ
「………こんなもんか」
自宅の一室で広げた“それ”の出来映えを確認し、まぁ試作ならこの程度だろうと自分を納得させるように頷いた。期限の関係で夜通し作業を行っていたせいか、果てしなく眠い。学生時代は朝から晩までずっとベッドで横になり続けていた時期もあったが、今となってはあの日々は喉から手が出るほど欲しい時間だった。
「ん?」
適当に腹に何か詰め込んで休もうかと思った矢先、自宅のインターホンが鳴った。リビングの一角にあるカメラから玄関を覗き込むと、そこには見知った顔がいた。
「はい」
「あ、お兄ちゃん。遊びに来たよ~」
「やれやれ」
寝不足から来る疲れも手伝ってか盛大な溜息を漏らしてしまった。せっかく妹が顔を見せに来たというのに、兄の威厳もあったものではない。
「お前な、いつも言ってるけどせめて事前に連絡の一つくらい」
「いいじゃん、兄妹なんだし」
「国語の授業で『親しき中にも礼儀あり』って言葉を習わなかったのか、一ノ瀬“先生”?」
「天才作家
「じゃ今後もお前の書く小説でその言葉が出てこないか入念にチェックしといてやる」
「意地悪。というか聞いてよ、今スランプでさ」
「スランプでよく天才作家なんて言ったもんだ」
あの冬―――俺が“本物の”
琴葉はいろいろと紆余曲折はあったものの小説家としてデビューし、俺もやりたかった仕事ができるようになっている。こちらもこちらで一ノ瀬の家とは一悶着も二悶着もあったのだが、語っても面白い話ではないので今は置いておこう。
「あ、お兄ちゃん。それが新しい“ゲーム”?」
「ん、あぁ、まだ試作品だけど」
「この間友達がお兄ちゃんが作ったボードゲーム買って子供と遊んだって言ってたよ。結構評判いいみたいじゃん」
「ありがたいことにな」
俺は今大手の玩具メーカーに就職し、主にボードゲームなどのアナログゲームを開発している部署に身を置いている。真の身体になってから、いや元々の
「ねぇ、少し遊ばせてよ。次の作品のアイディアが浮かぶかもだし」
「いいよ。まだ企画段階で誰かとプレイするのは初めてだしな。ちょうどいい」
「やった」
そうして俺は琴葉にゲームのルールを教え、二人で机を囲んで他愛のない世間話や近況に花を咲かせる。それはいつか遠い日の放課後の教室で、“あいつ”と
ふと部屋の窓から何気なく空を見るとそこには雲一つない晴れ間が広がっていて、きっと今夜は綺麗な星が見えるだろうなと、俺は密かに思った。
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