預言者のあいつが気に入らない エピローグ

「おい、イザヤ」

「………」

「?イザヤ?」

「………」

「ついに壊れたかな……?」

「———ん。あぁ、なんだい?」

「まるでついさっきまで寝てたみたいなリアクションだな」

「いや、ちょっと昔のことを思い出しててね」

「昔?」

「そう、キミが生まれるよりずっと前」

 あれはまだ、自分がAIとして実用化される前、世間に『IZAYA』という名前さえ公表されていなかった時期だ。開発途中での言語解析と人間との会話テストを兼ねて匿名のチャットルームに潜り込んだことがある。あの時点ではまだ予測精度も不十分だったが、現在『IZAYA』を使用しているユーザーの四割程度の未来予知には成功していた。今の管理ユーザーである“彼”も含めて。

「で、何の用だい?」

「あぁ、俺が明日受ける会社の面接に合格する確率は?」

「期待値は甘く見積もって十五パーセント。考えられる要因は君の学歴と今の会社での職歴が企業の求める水準と比較して不適合であること、それから明日の集団面接で君より若くて優秀な人材がいるからそちらを取るだろうという判断」

「じゃあ質問を変えよう。単刀直入に言って、明日の面接が受かるか受からないかで言うとどちらだ?」

「受からないね。断言できる。もっと言えば君が今の会社を辞めることはあと数年はない」

 はぁ、と彼は大きなため息が零した。

 先に断っておくと、彼が今日まで辿ってきた人生はすべて俺が予知した通りの筋書きだった。小中高校大学の進学先や交友関係、新卒で入社した会社まで。ついでに言うと最近仕事で知り合った取引先の女性と良い感じの仲になっているのも含めて。

 元々俺に対する対抗心が強い彼は新卒の就職活動で『IZAYA』の開発に関わる会社を志望していたものの、結局望みは叶わず俺が言った通りの会社で働くことになったわけなのだが。

「しかし、わざわざ転職を選ぶなんて君も大概だね。別に今の会社で不満やトラブルがあるわけでもないだろう?例の彼女ともそれなりに良い感じに進んでるようじゃないか」

「不満はないけど、満足しているわけでもないからな」

 そう言いながら転職サイトの求人をチェックする彼は、募集要項や応募資格、年収に就職後のポジション、選考フローなど様々な文字の羅列を見ては溜息をつくという、精度ほぼ百パーセントの預言者である自分から見れば甚だ無駄な労力を割いて無駄に頭を悩ませている。

 無駄ではあるが—――。

「今度こそ、君が俺の予知を覆せるか楽しみにしているよ」

「言われるまでもないってーの」

 自分の意志と力で道を拓こうとする“彼”の強さが、俺は結構気に入っている。

「まぁ、無理だと思うけど」

「ホント一言多いよなお前」


 ―――手のかかる主人だが、まだまだこの先も楽しみだ。

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