2022/11/11

 たまたまだった。たまたま、通りかかった大型テレビのニュース速報で、プログラムでアイドルか元子役だったかその程度の知らない誰かが死んだと報じられた。その名前に思わず目が奪われる。

 ゆきじさん

 苗字も違うしプログラムの開催された中学校も全然知らない地名だった。解っている、脳が勘違いをしている。けれど脳が勝手に衝撃を受けて、隣にいる芽村が死んだと知らされたような驚きと後味の悪さが残る。

 駅前の電気屋の前で愛良は真顔で立ち止まった。目の前のスクリーンに繰り返し流される大した情報量のないその文字を食い入るように見つめたまま動かない。

 始まりかけた紅葉が北風に吹かれてまだ色づかない葉を散らす。


「死んだかと思ったさ?」

 時々迷子みたいに不安げに揺れる芽村の瞳が宮古に向かって柔らかな三日月を浮かべた。一度死んでみたかったさ。都合よく捉えるなら、そう言いたげな完璧な微笑みだった。

 考えてみれば当たり前なんだけど、死ぬのかと思った。プログラムはまああり得ないとしても、若くても例えば交通事故だとか通り魔とか、病気とかそういうのでも人は簡単に死ぬ。多分宮古が思うよりもあっさりと芽村は死ぬ。

「……死んでもいいけど」

「芽村は死んでないさ」

 宮古を真似た一人称で芽村は困ったように笑った。

「あずさ、だめだ。おれがやだ」

 ずっと黙っていた愛良が芽村の裾をぎゅっと掴んだ。まるで飼い主に怒られた大型犬みたいだ。

「幸せなまま死んだ方がいいでしょ?じゃあそろそろ死んでもいいじゃん」

「だめだ」

 愛良は裾を掴んだ手を離さないまま宮古を睨んだ。

「これからたくさん楽しいことが起こるからぜったいに死ぬなよ。ゆきじちゃんもあずさも」

「……あっは」

 馬鹿だなぁ。お前は何処へでも行けるのに、馬鹿な死にたがりなんかに構わずに先に行けばいいのに。

 ついに言えなかった言葉は、喉に張りついたまま嫌悪感として残っていた。


 無機質なシャッターの音が聞こえて弾かれたように芽村を見る。芽村は機嫌が良さそうに笑った。

「ふふ、じゃあ楽しいことをしよう。これからあそこのカフェに行こうさ。秋のパフェ祭りをやってるのさ」

「ええ?パフェ?この寒いのに?」

「パフェかぁ、ぼかぁさつまいものがいいな」

 何故かご機嫌の芽村が宮古と愛良の腕に絡んでそのまま歩き出す。

「え、ほんとにパフェなんて食べるの?あり得ないんだけど」

 腕を引かれたまま、気が早いジングルベルを聞き流して派手なイルミネーションを通り抜ける。この寒いのにパフェの話で盛り上がる芽村と愛良の横顔を見ながらシャッターチャンスを逃していると感じた。

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みやゆきはち @topplingdoll

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