新米吸血鬼は遮光カーテンを巻いて境遇を呪う。
危機一髪、滑り込みセーフでマンションに帰り着いた俺達。奴の言うとおりに遮光カーテンを身体に巻き付けるとクローゼットの中の荷物を全て出して飛び込んだ。
単身用クローゼットは横幅が狭く、大人2人が横になるのは不可能なので、仕方なく向かい合ったまま壁に背を預け足を投げ出し眠ることにしたのだが、遮光カーテンも身長に足りなかったため足を縮めて体育座りに近い格好だ。
「本当に狭いな……。おい、ちょっとは遠慮して場所変われよ。出口に近い方だと火傷するかも知れないんだろう?」
「す、すみません。わたし虚弱体質なもので。吸血鬼になりたての貴方の方が、数倍わたしよりも丈夫だと思われます」
何だ、訳が分からない。吸血鬼という生き物? は日光と杭とニンニクと銀の弾と十字架以外は無敵なんじゃないのか? 虚弱体質とかあり得ないだろ。
でも、そういえば徒歩10分のマンションまでヘロヘロになりながら走って来たもんなコイツ。
いかん、考え出したら眠気も吹き飛んだ。自分だけ起きてるのも
「おい、お前は何で吸血鬼になったんだ? こう言っちゃ悪いが俺のイメージする吸血鬼とアンタは全然一致しない。ああ、もう、お前とかアンタとか面倒くさいな。名前はなんていうんだ?」
キョドり吸血鬼はぽつりぽつりと話し出した。名前は
「――て、いうことはアンタ、じゃなくキドは生きてたら94歳なのか?」
「はあ、そういうことになりますかね」
まるで他人事だ。長く生きるという事はこうも達観的になるものなのか? それとも、この木戸という者の特性なのか。
本当は俺こそが現実逃避をしていた。自分自身のこれからを考えるだけで、走り出して叫びたい衝動に駆られる。
それをしないのはただ、今が昼間だからに他ならない。後先考えず外に飛び出せば影も形も残らず消し炭になる未来を容易に想像出来るからだ。
なので、俺をこんな目に合わせたキドの最も思い出したくない記憶を掘り起こし
「あの、お取込みの所大変恐縮ですが、カーテンから出てる足が燃え始めて居ます」
「ちょっ、もっと早く言えよ! アチチ……」
安価な造りのクローゼットの隙間から夏の強い日差しが虫眼鏡のように差し込みチリチリと焦げ臭い匂いが辺りに漂う。
おまけに慌てて煙が出かけてる所を手で叩いたから剥き出しの手の平に水膨れが出来た。
痛くはない、痛くはない無いが、ここまで踏んだり蹴ったりな自分に情け無いやら自己憐憫に浸って泣きたいやら、とにかく泣き喚いて一杯呑んで寝たいと切実に思ったのだった。
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