だって……
煙草の灰をトン、トン、と灰皿に落とし、煙草をもみ消す。首の可動域を全て使い狭いワンルームを見渡した。身体の底から笑いが込み上げてくる。ハハ。わたしここで死ぬんだ。
ただこの世界をうろちょろしていただけなのに、世間は、いや、世界は止まることなく進み続ける。ある日わたしは気がついたのだ。世間の人間たちは濁流の中を必死に歩いているのだと。そしてわたしは濁流に流されていることを知らずに気がついたら隅っこまで押しやられていたのだ。両足の骨が折れた状態で。もう多分戻れない。だからわたしは去るのだ。
最期の晩餐は大層なものをわざわざ食べたくなくてカップ麺にした。惰性で吸っていた煙草は全て吸い付くした。もう未練はない。なんてつまらない人生なんだろう。二つしか動いていないのに未練がなくなった。
「じゃあ、また」
つい口に出た言葉は友人と遊んだ後の挨拶のような、軽いものだった。大量の錠剤を飲んで意識が消える前に親に連絡をする。
「だって……世界が待ってくれないんだもん」
きっといみわかんないだろうなぁ。
不気味な掌編小説集 中川葉子 @tyusensiva
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