第83話 汚洋館

 釘の当たらなかった場所にやって来た。


 そこには小さな島があった。


 中央に古びた洋館が建っている。


 こんな島、地図に載ってなかったよな?


 どういうことだ?


 もしかして、スローライフ邪魔し隊が地図から消したのか?


 あり得そうだな。


 まあ、そこはどうでもいいか。


 では、あの洋館に行ってみよう。



 正面入り口の扉の前にやって来た。


 ん?

 モヒジ・カンゾウのお堂が置いてあるぞ。


 とすると、ここはダンジョンなのか。



 正面玄関の扉を開けた。


 そこはゴミが散乱しまくっている広いエントランスホールだった。


 空の弁当の容器、缶詰、菓子袋、カップラーメンの容器などの食料品関係のゴミと、無造作に積まれたダンボール箱が大量にある。


 悪臭が漂っている。


 な、なんだこりゃぁぁぁっ!?


「汚すぎるゲスッス!」


「まったくじゃ! まるでスローライフ家事力の試練のようじゃな!!」


「こんな場所に長居するのは健康に良くないのである! 早く探索してしまうのである!」


「ああ、そうだな!」


 俺たちは洋館の中に入った。



 ここには左右に一か所ずつ扉があり、正面に上り階段がある。


 さて、どうしよう?


 まあ、とりあえず、一階から調べてみるか。


 俺は左の扉を開けた。



 そこには長く広い廊下が左右に伸びていた。


 一定間隔で扉が並んでいる。


 そして、ここもゴミが散乱している。


 本当に汚いところだなぁ。


 さっさと探索してしまおう。


 俺は近くにある扉を開けた。



 中は広い洋室だった。


 当然ゴミだらけだけどな。


 どこも汚いなぁ。


 なんでこんなに汚れているんだ?


 元々こういうダンジョンなのか?

 それとも誰かが汚しているのか?


「飯の時間でゴザイマスルか~?」


 部屋の奥から聞き覚えのない声が聞こえてきた。


 俺は声のした方を向いた。


 なんだこいつは!?


 そこには巨大なトドのような生物が転がっていた。


 体長四メートルくらい。


 球体のような体型だな。


 太りすぎじゃないか?


「むっ、人間でゴザイマスル!? なぜここにでゴザイマスル!?」


 トドが質問してきた。


「ちょっと探し物があってな」


「ほう、探し物でゴザイマスルか。むむっ、これはスローライフオーラ、なるほど、そういうことでゴザイマスルか……」


「俺たちが来る理由に心当たりがあるようだな」


「私はスローライフ邪魔し隊、戦闘係『トウドゥ』でゴザイマスル! 貴様らには死んでもらうでゴザイマスル!!」


 戦闘係!?


 とうとう出て来たか!!


「ぬおっ!?」


 トウドゥが突然叫んだ。


「なんだ!? どうかしたのか!?」


「な、なんでもないでゴザイマスル! それよりも、これをくらうでゴザイマスル! スープを残した状態で何日間か放置したカップラーメンの容器でゴザイマスル!」


 トウドゥが周囲に落ちていた容器を投げ付けてきた。


「ぎゃあああああっ!! そんなの投げてくるな!?」


 俺たちはかろうじて回避した。


「まだまだあるでゴザイマスル!」


 トウドゥが周囲に落ちているゴミを投げてきた。


「だから、そんなの投げるなって!? 部屋が汚れるだろ!?」


「元々汚れているから問題ないでゴザイマスル!」


「それもそうだな!?」


「ハヤトよ、ここは一時退却するのじゃ!」


「そうだな! ゴミのないところまで退くぞ!!」


「分かったゲスッス!」


 俺たちは部屋を出た。



「あれ? トウドゥが追って来ないな?」


「そうじゃな。どうしたのじゃろうか?」


「もしかして、太りすぎていて動けねぇとか?」


「そんなまさか」


 まさかだよなぁ?


「追って来ないのなら、放っておくのである。それよりも、早く目的のものを探してしまうのである」


「そうじゃな」


「ああ、先に進もうか」



 トウドゥのいた部屋の隣の部屋に入った。


 ここもゴミだらけの広い洋室だな。


 本当に汚いところだぁ。


「むっ、ナニヤツでゴザリマスルか!?」


「えっ!? トウドゥ!?」


 部屋にはトウドゥのような巨大なトドがいた。


 こいつも球体みたいな体型をしている。


「それは兄でゴザリマスル。私はスローライフ邪魔し隊、戦闘係『トエドゥ』でゴザリマスル」


「弟だったのか」


 よく似た兄弟だな。


「むっ、これはスローライフオーラでゴザリマスルか!? 貴様らは敵でゴザリマスルな!? いざ、尋常に勝負でゴザリマスル…… うぐっ!?」


 襲いかかってこようとしたと思われるトエドゥが、突然動きを止めた。


「どうかしたのか!?」


「か、体が……」


「体がどうかしたのか!?」


「重くて動けないでゴザリマスル……」


「ええ…… どういうことなんだよ?」


「そういえば、最近運動をしていなかったでゴザリマスル。それに食事量も増えた気がするでゴザリマスル」


「それは太って当然だろう。どうして、そんなことをしたんだよ?」


「係長がスローライフメタルとスローライフインクをここにすべて集めて、戦闘係全員で守っていれば、誰も許可証を入手できなくなるって言ったでゴザリマスル」


「なるほど、そういうことだったのか。そのせいで、ここにとどまらざるを得なくなって、運動不足になったと」


「その通りでゴザリマスル…… はっ、しまったでゴザリマスル!? これは極秘事項でゴザリマスル!? くっ、なんという巧みな話術でゴザリマスルか!? ただものではないゴザリマスルな!?」


「話術なんて使ってないだろ!? そっちが勝手にしゃべっただけだ!?」


「うるさいでゴザリマスル! こうなった以上、ここで始末するしかないでゴザリマスル!!」


「だが、動けないのでは?」


「戦闘係を甘く見るなでゴザリマスル! これをくらうでゴザリマスル!!」


 トエドゥが周囲に落ちていたゴミを投げてきた。


「兄弟そろって同じことすんな!? ぎゃあああああっ!? 臭い汁が!? みんな退却だ!」


「分かったゲスッス!」


 俺たちは部屋の外に逃げた。

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