第54話 スローライフ許可証のダンジョン

 俺たちはスローライフ許可証のダンジョンに入った。


 そこは広い役所のような場所だった。


 右手に一から八までの番号が振ってある窓口が並んでいる。


 その奥に事務用の机が多数ある。

 さらにその奥には片開きの扉がある。


 左手には椅子が複数置いてある。

 おそらく待合所なのだろう。


 正面の奥に両開きの扉がある。


 そして、一番の窓口にネイビーのスーツに眼鏡姿の、真面目そうな美女がいる。


 窓口の担当者みたいだな。


 他は誰もいない。


 窓口も事務用の机も複数あるのに、なんでひとりしかいないんだ?


 休憩中なのか?


 まあ、そんなのどうでもいいか。


 とりあえず、彼女に話を聞いてみよう。


 俺たちは一番窓口に向かった。



「すみません。スローライフ許可証の入手方法を教えてください」


「かしこまりましたデアリマス。では、こちらをどうぞデアリマス」


 担当者が書類を渡してきた。


 なんだこれは?


 一番上に『スローライフ許可証発行申請書』と書いてあるぞ。


 その下に、一辺の長さが二センチくらいの正方形が十個並んでいる。


 これは押印欄なのだろうか?


「その書類を三五階の窓口に提出してくださいデアリマス」


 三五階!?


 ここって、そんなに広いのかよっ!?


 エレベーターとかはないのか!?


 ちょっと聞いてみよう。


「ありませんデアリマス。階段はそちらですデアリマス」


 担当者がそう言って、両開きの扉の方に手を向けた。


 三五階まで階段を上らないといけないのかよっ!?


 面倒だなぁ……


 まあ、仕方ないか。


「その書類、おいらにもくれゲスッス!」


「どうぞデアリマス」


 シャワイヤーも書類を受け取った。


 では、行くとしようか。



 両開きの扉を開けると、そこには洞窟が広がっていた。


 やはりここもダンジョンなんだな。


 では、進もうか。



 内部は迷路状になっているようだ。


 それもかなり広く、複雑に入り組んだものになっているぞ。


 マッピングしないと、迷子になりそうだな。


 一階でこれなのに、三五階まで行かなければいけないのか……


 こいつは骨が折れそうだなぁ。


 だが、これもスローライフのためだ!


 がんばらないとな!


 さあ、どんどん進もうか!!



 な、なんだあれは!?


 前方から不審者が近付いて来たぞ!?


 胴体部に緑色の文字で『け~びいん』と縦書きされている茶色の全身タイツ。

 黒い目出し帽。

 赤いアフロヘアーのカツラ。

 ピンク色の腹巻。


 これらを身に着けている。


 両手に長さ七〇センチくらいの、黒い警棒のようなものを一本ずつ持っている。


 身長二メートルくらい。

 筋骨隆々の男性体型。


 このような姿をしている。


 数は四体いる。


「そこの不審者、止まりなさいケビケビ!」


 け~びいんの一体が話しかけてきた。


 不審者に不審者呼ばわりされただと!?


 自分のことを棚に上げて、何を言っているんだ、こいつは!?


 まあ、俺も割と怪しい格好をしているけどな!!


「ここで何をしているのかねケビケビ!?」


「三五階の窓口に向かっているところだ」


「三五階ケビケビ!? 三五階に行こうとしているのかねケビケビ!?」


「その通りだけど、それがどうかしたのか?」


「いや、別に何もないケビケビ」


「何もないのかよっ!? まあ、どうでもいいか。それじゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」


「待つケビケビ! 特に明確な理由はないけど、三五階に行かせるわけにはいかないケビケビ!」


「なんでだよっ!?」


「とりあえず、死ねケビケビ!」


 よく分からない理由で、け~びいんたちが襲いかかってきた。



 四体のけ~びいんたちが数の利を生かし、俺たちを取り囲んできた。


 そして、連携して攻撃を仕掛けてきた。


 容赦なく繰り出される連続攻撃をまったく避けられず、俺は体中を棒で殴られまくった。


 だが、どの攻撃もたいして痛くなかった。


 衣魔法のおかげみたいだな。


 強化しておいて良かったぁ。


 その後、スローライフオーラ魔法で身体能力を強化し、捨て身で攻め込み、なんとか倒すことができた。



 では、後始末をしようか。


 ん?

 け~びいんたちの中から、青い綿のようなものが出ているぞ。


 こいつらも動くぬいぐるみなのか。


 ということは、また綿を買い取ってもらえるのかな?


 サンクトに調べてもらおうか。


 こいつの奉納部位は腹巻らしいので、はぎ取った。


 黒い目出し帽、アフロヘアーのカツラ、棒、外皮、中の綿のすべてが買い取ってもらえるらしいので、解体してアイテムボックスに入れてもらった。


 よし、後始末完了だ。


 先に進むとするか。



 頻繁に出て来るけ~びいんたちを倒しながら、先に進んで行った。


 そして、上り階段を見つけた。


 デザインはいつもの豪華なものではなく、ビルの中にあるような普通の階段だ。


 こういう階段もあるんだな。


 まあ、デザインなんてどうでもいいか。


 さっさと進もう!


 俺たちは階段を上がった。



 二階にやって来た。


 そこも役所のような場所だった。


 内装は一階と同じだ。


 ただ、どの窓口にも、一階と同じ容姿の担当者がいる。


 あいつらもぬいぐるみのシレモンなのだろう。


 さて、ここに用はないし、さっさと上に向かうとするか。


 俺たちは部屋の奥にある両開きの扉を開けた。


 その先は一階と同じような洞窟だった。


 また広大な迷路になっているようだ。


 面倒だなぁ。


 まあ、仕方ない、先に進もう。



 頻繁に出て来るけ~びいんたちを倒しながら、先に進み続けた。


 このダンジョンは、どの階も同じような構成になっているようだ。


 階段を上がると役所のような部屋があって、その隣には迷路状の洞窟があり、け~びいんがいて、上り階段がある。


 休憩部屋がある階もある。


 どの階の迷路もとても広く、入り組んでいるので進むのに時間がかかった。



 そして、一週間後。


 俺たちはようやく三五階にたどり着いた。


 ようやく着いたか……


 苦労したなぁ……


 では、書類を窓口に提出しよう。


 これでまた一歩スローライフに近付けるのか……


 素晴らしい!!


 おや?

 この階も一番から八番までの窓口があって、そのすべてに担当者がいるぞ。


 しかも、また一階の担当者と同じ容姿だ。


 書類をどこに持って行けば良いのだろうか?


 まあ、どこでもいいか。


 間違っていたら、指摘されるだろう。


 適当に一番の窓口に行ってみるか。


「すみません。この書類を提出するのは、ここで良いですか?」


「はい、合ってますよデアリマス。では、判子を押しますねデアリマス」


「おいらのもよろしくゲスッス」


「かしこまりましたデアリマス」


 担当者が二枚の書類に押印した。


 判子には『だんじ』と彫られているようだ。


 誰かの名前なのだろうか?


 それとなぜか『だ』の文字だけが、他のものより大きいぞ。


 なぜなのだろうか?


 まあ、どうでもいいか。


 ちょっと変わったデザインなだけだろう。


「では、今度は三階の窓口に提出してくださいデアリマス」


 えっ!?

 今度は三階に行かなければいけないのかよっ!?


 面倒だなぁ。


 まあ、仕方ない、行くとするか。

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