第40話 ダンジョンの最奥へ

「おはよう、生徒諸君!」


「「「おはようございます!」」」


「出発の準備はできたか?」


「できてますよ」


「では、いよいよこのダンジョンの最奥に向かう」


 おおっ、いよいよか!


 どんなところなのだろうか?


 想像も付かないな。


 俺たちは休憩部屋を後にした。



 階段を下りて、地下四階にやって来た。


 周囲は一階のような洞窟だ。


 ただ一階と違って通路はなく、大きな部屋にボス部屋の扉と上り階段だけしかないがな。


「生徒諸君、あの扉の向こうにいるボスを倒せば、このダンジョンをクリアしたことになる」


「クリアすると、どうなるのですか?」


「ダンジョンによって異なる。このダンジョンの場合は、記念品と、ダンジョンの破壊及び移動ができる装置が手に入る。まあ、もっとも、装置の方は学校が所有しているから手に入らないがな」


「破壊及び移動ができる装置!? なんですか、それは!?」


「言葉通りダンジョンを破壊もしくは移動できる装置だ。この学校に五つのダンジョンが並んでいるのは、それを使用したからだ」


 へぇ、そうなんだ。


「記念品というのは、具体的になんなのですか?」


「それは毎回変わる。大量のよポイント、何かの肉五キロ、なんらか金属のインゴット、武器や防具などがもらえたことがある」


「何かの肉!? それは美味しいの!?」


 クゥーネが食いついてきた。


 まあ、君はそういうヤツだよね。


「美味しかったらしい」


 よく分からん肉を食ったヤツがいるのか!?


 チャレンジャーだな!


「それは素晴らしい! 手に入れなくては!!」


 クゥーネが燃えている。


 手に入れる前に食えるようになれよ。


「記念品は何度も手に入るのですか?」


「その通り。ボスを倒すたびに必ず何かが手に入る。ちなみにボスは部屋の扉を閉めると復活する」


「そうなんですか」


「ということは、肉も手に入れ放題!? 素晴らしい!!」


「毎回肉が手に入るわけではない」


 クゥーネがボス部屋を占領しそうだな。



「では、ここのボスを見てみよう」


 先生が扉を開けた。


 ボスか。

 いったいどんなヤツなのだろうか?


 俺はボス部屋を覗いてみた。


 ん?

 ボスはどこにいるんだ?


 単なるだだっ広い洞窟内の大部屋にしか見えないぞ。


 まさか透明なボスだったりするとか!?


「どこにボスがおるのじゃ? まったく見えんぞ」


「部屋の中央をよく見てみろ」


 中央?


 おや?

 あれは?


 ボス部屋の中央に草が生えていた。


 先の尖った細長い緑色の草だ。

 長さは十数センチ程度だ。


 まさかあれがボスなのか?


「気付いたか、生徒諸君? あの草がここのボスだ」


「なんだあれは!? とてつもなく弱そうじゃないか! もっとデンジャーなヤツだと思っていたぞ!!」


 ギターの人がそう言った。


 まあ、確かに弱そうに見えるな。


 だが、油断は良くないな。


「では、生徒諸君に質問しよう。あのボスと戦ってみるか? ちなみにあのボスからは逃げることができるからな」


 えっ!?

 うーむ、どうするべきか?


「吾輩は戦おう!」


 ギターの人が名乗りを上げた。


「そうか。では、他の者はどうする?」


「あたしはやめときます」


「今日の運勢がよろしくないので、ワタシもそうします」


 俺もやめておこう。


 結局、他は誰も戦おうとはしなかった。


「では、吾輩だけ行くぞ! そこで吾輩の戦いを見ているが良い!!」


 ギターの人がボスに向かって行った。


 すると、突然草の下から大型の何かが飛び出て来た。


 な、なんだあれは!?


 大きな人形の表面に緑の苔が生えたような何かだ。


 身長は九メートルくらい。

 がっしりした体格。

 頭頂部に草が生えている。


「あれがここのボスの本当の姿だ。普段は隠れているが敵が近付いて来ると、あのように姿を現すのだ」


 セコイなぁ。


「名前は『人苔ひとこけ』という。四文字ランクのシレモンだ」


 ものすごくシンプルな名前だな。


「攻撃方法は非常に単純。突進や腕を振り回すといった巨体を生かしたものとなっている」


 確かに単純だけど、対処しづらいそうだな。


「奉納部位はなんですか? どこにあるのですか?」


「あの中に少し色の濃い苔がある。それが奉納部位だ。場所は毎回変わる」


「見分けがつかないのですが……」


「奉納部位はかなり小さいから無理もない」


「そんなヤツを、どうやって倒すのですか?」


「もっとも簡単なものは燃やすことだが、それでは奉納部位も燃えてしまう。燃えてしまった場合は奉納できない。記念品は手に入るがな」


 そいつはもったいないな。


「他の方法はありませんか?」


「苔がよく取れるブラシが売っている。それを使ってこすり落とす生徒がいる」


 そんな方法なのかよっ!?


 後で店に行ってみようかな。



 さて、ギターの人はあんなデカいヤツと、どう戦うのだろうか?


 あっ、ギターの人が逃げ出したぞ!


 まあ、無理もないか。


「なんだあれは! 詐欺じゃないか!?」


 ギターの人が文句を言っている。


 確かにあれは詐欺だな。



「もう戦おうという者はいないな? では、帰還するとしよう」


 俺たちは来た道を戻った。



 ダンジョンの外に出た。


 周囲は明るい、まだ日中のようだ。


「では、これで今回の授業は終了だ。二年生の諸君は解散。ダンジョンコースの生徒は今後の話があるので残ってくれ」


 今後か。

 次は何をするのだろうか?


「お疲れ様でした~」


 二年生たちが去って行った。



「さて、ダンジョンコースの諸君、君たちの授業はこれで終了だ」


 えっ、たった三回で終わり!?


 ちょっと料金高すぎないか!?


「だが、入学日から二年間、この学校の施設を自由に使ってもらって構わない。教師に質問しても良い」


 ああ、なるほど、そういうサービスが付いているからなのか。


「以上だ。では、解散!」


「お疲れ様でした。ありがとうございました」


 ダンジョンが訳の分からない場所であるということが、よく理解できた授業だったな。


 では、売却して帰るか。



 買取所で売却した。


 ヤシの実は全部合わせて、一万ジカァ。

 タライは神鑑定通りの値段だった。


 その後、孤児院に帰った。

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