第33話 差がありすぎだろ!

 ん?

 また蛇みたいな動きのシャワーが来たぞ。


 また通路に水をまく、地味な嫌がらせをしてくるのか……


 はぁ、やれやれだな。


「むっ、あれは!? 生徒諸君、後退しなさい!」


 突然先生が強い口調でそう言った。


 これはただごとではないようだな!


 素直に従っておこう!


 俺たちは後退した。


 そして、先生方はシャワーと対峙した。


 シャワーは動きを止め、先生方に向かって炎を放射してきた。


 なんだあれは!?

 まるで火炎放射器みたいじゃないか!?


 さっきのと違いすぎるだろ!?


 なんであんな強烈なのがいるんだよっ!?


 詐欺じゃないのか!?


 先生方は大丈夫なのか!?



 先生方は素早く炎を回避し接近、ホースの部分をつかみ、ヘッドの部分を壁に叩き付けた。


 シャワーは動かなくなった。


 おおっ!!

 これは見事だな!!


 さすがダンジョンコースの教師だ!

 熟練の技だな!!


「生徒諸君、無事か?」


「はい、全員無事ですよ」


「それは良かった。見ての通り、炎を放射してくるシレモンもいる。油断しないように」


「見分ける方法はないのですか?」


「ある。これを見ろ」


 先生がそう言って、シャワーヘッドのホースとの接続部を指差した。


「ここに赤い線が一本入っているだろう? これがある個体は炎を出す」


 そこには太さ一ミリ程度の細い線があった。


 細すぎ!?

 こんなのを見つけなければいけないのかよっ!?


 これを作ったヤツは性格が悪そうだな!!


「この赤い線がないものは水をまいて逃げるだけだ。先ほど見たシレモンだな」


 そうだったのか。


「他のものを出してくるシレモンはいますか?」


「ああ、存在する……」


「ハヤト! また来おったぞ!!」


「えっ!? また!?」


 シャワーが一体近付いて来た。


 今度のは何を出すヤツなんだ!?


 接続部がよく見えないぞ!?


 こういう時はとりあえず、距離を取っておこうか。


 ん?

 突然風が吹いてきたぞ。


 どうやらシャワーから出ているようだ。


 扇風機のような程好く涼しい風だ。


 とても気持ち良い。


 そして、シャワーは去って行った。


 今のはなんだったんだ!?


「生徒諸君、あれは涼風を出すだけの無害なシレモンだ。特徴は先程のシレモンと同じ位置に、緑色の線が入っていることだ」


 さっきとの差がひどすぎじゃないか!?



「むっ、もう一体来おったぞ!」


 またシャワーが一体近付いて来た。


 くっ、また線がよく見えないな!?


 今度はどんなヤツなんだ!?


「アホーーーーーーーー!!!!!」


 シャワーからカラスのような鳴き声が聞こえた。


 そして、シャワーは去って行った。


 えっ!?

 それだけなのか!?


「あれは鳴き声を上げて去って行くだけの無害なシレモンだ。特徴は先程のシレモンと同じ位置に、黒い線が入っていることだ」


 えええええっ!?

 なんでそんなのいるんだよっ!?



「ここにいるのは、あの四種類だ」


「そうなんですか」


 炎のヤツだけが危険なんだな。


「さあ、そろそろ行こうか」


 俺たちは先に進んだ。



 しばらく進むと、宝箱部屋があった。


 この階にもあるのか。


「生徒諸君、宝箱部屋は同じダンジョン内に複数ヶ所存在することもある。ここのようにな。そして、奥地にある部屋の方が良いことが起きる可能性が高い」


 へぇ、そういうものなのか。


「では、質問しよう。この宝箱部屋に入ってみるか?」


 二年生たちが全員入りたいと言い出し、入ることになった。


 部屋の中央にやって来た。


 すると、上から手のひらサイズの白い紙が落ちて来た。


 そこには黒い文字で『当たズレ』と書いてあった。


 特に意味のないものらしい。


 俺たちは部屋を出て、先に進んだ。



 しばらく進むと、黄緑色の両開きの大きな扉があった。


 なぜか弓と球と『戦闘行為禁止』という赤い文字が刻まれている。


 ここはなんだろう?


「ここは『休憩部屋』と呼ばれているところだ。この中ならシレモンたちは襲ってこない」


 そんな場所があるのか!?


 意外と親切設計なんだな!?


 ところで、なんで扉に弓と球が刻まれているのだろうか?


 ま、まさか休憩きゅうけいだから、弓形きゅうけい球形きゅうけいなのか!?


 そんなくだらないダジャレなのか!?


 いや、そんなまさかな!!


 あり得ないよな!!


 うん、そういうことにしておこう!


「では、今日の授業はここまでにして休むとしよう」


 俺たちは部屋の中に入った。



 中は広い空間だった。


 天井、壁、床の材質も外と変わらない。


 奥の方にモヒジ・カンゾウのお堂がある。


 後は……


「ああ、今日も疲れたゲス~」


「まったくだゲスッス! さっさと休むゲスッス!」


 なぜかシャワーのシレモンが十数体いるぞ!?


 どういうことなんだ!?


「生徒諸君、このようにシレモンも休憩していることがある」


 ええっ!?

 シレモンと共用なのかよっ!?


「扉に書いてあった通り、この中での戦闘行為は禁止されている。シレモンに攻撃しないように」


「攻撃するとどうなのですか?」


「所持しているよポイントが減るそうだ」


 ええっ!?

 それは絶対に攻撃できないな!!


「シレモンたちの方から襲ってくるのでは?」


「そこの人間、我々はそのような非道な行いはしないゲス!」


「そんなことをしたら、ルール違反でよポイントを減らされてしまうゲスッス!!」


 シレモンたちに注意された。


 ん?

 よポイントを減らされる?


 ということは……


「シレモンたちもよポイントを集めているのか?」


「その通りゲス!」


「よポイントがあればパワーアップしたり、シレモンをやめれたりできるゲスッス! ああ、おいらもシレモンやめたいゲスッス……」


 そんなことができるのかよっ!?


「シレモンをやめてどうするんだ?」


「どこかでのんびりスローライフなんて良いなぁ、と思っているゲスッス!」


 ええっ!?

 こいつもスローライフをしたいのか!?


「アホだゲス! そんなことをやったらスローライフ邪魔し隊に成敗されるゲス!!」


「そこは許可証を入手すれば良いゲスッス!」


 なんだか親近感が湧くヤツがいるなぁ。

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