第21話 かまってちゃん?

 先生は飛んで来たシレモンたちを、目にもとまらぬ速さで叩き落した。


 その後、襲ってきた店員も殴り倒した。


 なんだ今のは!?

 すごすぎだろ!?


 これがダンジョンコースの教師の力なのか!?


「このように危険な目に遭う。行わないように」


「はい、よく分かりましたよ」


 やらないようにしよう。


「では、先に進もう」


「先生、奉納部位を拾わないのですか?」


「後で回収する予定だ。君たちは拾わないように。他人が倒したシレモンを勝手に奉納すると、ペナルティがあるからな」


「えっ!? そうなんですか!? どんなペナルティがあるのですか!?」


「よポイントを減らされてしまう」


「そうなんですか」


 これもやらないようにしよう。



「きゃああああああああああああっ!!」


 通路を歩いていると、突然悲鳴が聞こえた。


 な、なんだ!?


 誰かがシレモンに襲われているのか!?


 むっ、誰かが近付いて来るぞ!?


「た、助けてくださいダベ!!」


 妙齢の女性がそう言いながら、走って来た。


 茶髪のロングヘアーで、ブレザー制服のようなものを着ている美女だ。


 身長は一六〇センチくらい。


「オラァッ!! 待ちやがれダベ!!」


 その後ろから不審者が三名やって来た。


 目のところに穴の開いた茶色い紙袋、青い蝶ネクタイ、黒いロングレザーパンツを身に着けている筋骨隆々の男性たちだ。


 身長二メートルくらい。


 なんだあの不審者どもは!?

 ダンジョンには、あんなのが住み着くことがあるのか!?


「助けてダベぇぇぇっ!!」


 ん?

 語尾に変なものが付いているぞ。


 まさかあいつらってシレモンなのか?


「語尾に気付いたか? あれもダンジョンの罠だ。ああやって、助けようとした者を襲うわけだ」


 ああ、やはり罠なのか。


「他人の善意に付け込む、すさまじく卑劣な罠だ。だまされないように」


 卑劣というより、セコイ感じがするけどな。


「さて、生徒諸君、また問題だ。今回はどのように対処すれば良いと思う?」


「先程と同じなのでは? 急いでいるなら無視、お金とよポイントが欲しいなら倒せば良いのでは?」


「ふむ、なるほど。では、今回は無視して進んでみようか」


 俺たちは不審者たちを無視して先に進んだ。



「あああああっ!! だ、誰か助けてダベ!!」


「こんなところに誰も来るわけないダベ! 大人しくするダベ!!」


「誰か、誰か、助けてダベぇぇぇぇぇっ!!!」


「誰も来ねぇダベ!! 観念しやがれダベっ!!」


 シレモンたちが演技をしながら、俺たちに付いて来ているんだけど……


 なんだこいつらは!?

 しつこいし、うっとうしいぞ!?


 いったいどういうことなんだよっ!?


「このように移動できるシレモンは追いかけてくる場合がある。こういうものはさっさと退治した方が良い」


「面倒なシレモンもいるんですね。付いて来るくらいなら、襲ってくれば良いのでは? なぜあいつらはそうしないんですか?」


「それは解明されていない」


「そうなんですか」


 構って欲しいだけなのかな?


 まあ、そんなのどうでもいいか。



「では、今度は君たちにも戦ってもらおうか。あの男性型のシレモンをひとり一体ずつ相手をしてみてくれ。女性型は私が始末しよう」


 さっそく実戦か。


「分かった」


「では、いきますよ!」


 クゥーネとリョールが不審者に向かって行った。


 クゥーネは蹴り一発で、不審者を吹き飛ばした。


 リョールは自身の刃で、不審者の首を切り落とした。


 おおっ!?

 あのふたり強いんだな!?


 そして、先生も女性型のシレモンを殴り倒していた。


 みんなすごいな!!


 俺も負けていられないぞ!


 スローライフのために、あいつをぶっ倒そう!


 と意気込んではみたものの、どう戦えば良いのだろう?


 俺も多少は身長が伸びたが、あいつとの体格差がありすぎる。


 真正面から戦うのは無理だな。


 よし、ここはエリンシシと同じ戦法にしようか。


「シチロー、あいつの死角から足に体当たりをするんだ」


「人使いが荒いのう……」


「現状それしか倒せそうなのがないんだ! 頼むよ!!」


「仕方ないのう……」


 シチローが不審者に向かって行った。


 そして、足に体当たりをした。


「ぐあああああっ!!」


 不審者がうつ伏せに倒れた。


「よし! シチロー、そのままとどめを刺すんだ!!」


「人使いが荒すぎじゃぞ!」


 シチローが不審者の首に突き刺さった。


 不審者は動かなくなった。



 これで倒せたのか?


 どうなのだろう?


 ちょっと突いてみようか。


 あれ?

 なんだかやけに柔らかい気がするぞ?


 それに血が出ていない。


 こいつは生物ではないのか?


 ん?

 よく見ると、シチローが体当たりしたところから緑色の綿のようなものが出ているぞ。


 もしかして、動くぬいぐるみなのか?


 よく分からないヤツだなぁ。


「全員倒すことができたようだな。このシレモンの奉納部位は外皮だ。中の綿は買い取ってもらえる。後で売却すると良い」


 ほう、そうなのか。


 では、皮をはごう。


 ナイフで皮を切り裂き、中の綿を取り出した。


 そして、アイテムボックスに入れた。


「終わった」


「わたくしも終わりました」


 クゥーネとリョールも解体を終えたようだ。


 皮と綿はクゥーネがふたり分持っている。


 あのふたりにはアイテムボックスはないのか。


 というか、カバンすら持ってきていないのかよ。


 仕方ない、ちょっと人助けでもしようか。


 情けは人のためならずというしな。


「おふたりさん、うちのアイテムボックスにはまだ空きがあるんだけど、その荷物入れようか?」


「えっ? それは……」


 初対面の人間だから警戒されているのだろうか?


 まあ、当然か。


「あなた美味しそうな良い人。ありがたく入れさせてもらう」


「クゥーネさん!?」


「美味しそうは余計だろ!? ディディ、頼むよ」


「うむ」


 アイテムボックスに入れた。


「ハヤトさんでしたね。厚かましくて申し訳ありません……」


「ああ、気にしなくて良いんだよ」


 リョールは礼儀正しいな。


「全員終わったようだな。では、行こうか」


 俺たちは先に進んだ。

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