第12話 リンゴと梨とアボカド

 食後は町の中を散歩した。


 日本にありそうな店や、武器、防具屋といった馴染なじみのない店まであって、とても楽しめた。


 学校の場所も教えてもらった。


 そして、歩き疲れたので、近くにあったハンバーガーを売っている店の中で、昼食を取りつつ休んでいた。


 この世界のハンバーガーとフライドポテトも美味しいな。

 うまいコーラまで売っているし、良い店だな。


「シレモンが増加しています。不要な外出は控えてください。シレモンハンターの皆様は駆除にご協力ください。よろしくお願いします」


 このような呼びかけをしている赤い広報車が、店の近くを通って行った。


「シレモンの増加ね」


「それが今回の試練ですか」


「そのようだね」


「ところで、シレモンハンターというのはなんですか?」


「名前の通り、シレモンを狩って生計を立てている人のことだよ」


「そうなんですか」


 なんのひねりもない名前だな。


 いや、まあ、問題ないんだけどね。


「駆除にどのくらいの時間がかかるか分からないから、今日は宿に泊まるとしよう。食べ終わったら探しに行くよ」


「分かりました」


 俺たちは日本のビジネスホテルのようなところに泊まった。



 次の日。


 俺たちは孤児院に戻った。


「どうやら孤児院は無事のようだね」


「そのようですね」


 良かった良かった。


「後は周辺の安全を確保しておきたいところだね。ちょっと見回りをしてくるよ。トレットとハヤトはどうする? 付いてくるかい?」


「僕は付いて行きますよ」


「はい、連れて行ってください!」


「よし、じゃあ、行くよ!」



 俺たちは孤児院の周囲を見て回った。


 おや?

 畑の所々で、作物が倒れているぞ。


「荒らされている場所がある。シレモンがいるかもしれないよ。トレット、ハヤト、気を付けなよ!」


「分かりましたよ!」


 俺たちはあたりを警戒しながら、先に進んだ。



 しばらく進むと、怒号が聞こえてきた。


「オイ、コラァ、ここは余の土地だニャ! さっさと出て行けニャ!!」


「うるせぇニュ! ここは今から俺様の土地ニュ! ボコボコにされないうちに出て行くニュ!!」


「何言ってんだ、てめぇニョ! ここは我様の縄張りに決まっているだろニョ!! とっとと消えやがれニョ!!」


 リングァエルと見たことのない二種類の何かが、畑の中で縄張り争いをしているようだ。


 見た目は茶色いリングァエルと、黒くやや縦に長い体のリングァエルだな。


 なんだあいつらは?


 リングァエルの梨とアボカドバージョンなのか?


 ちょっと院長に聞いてみようか。


「あの茶色いのは『ナゲァエル』黒いのは『アボカズァエル』だね。この辺にはいなかったんだけど、昨日ので出現したのかねぇ?」


「リングァエルではない、別種なんですか?」


「そうだよ。といっても、強さはリングァエルと変わらないけどね。奉納部位も同じなんだよ」


「へぇ、そうなんですか。ところで、なぜ縄張り争いをしているんですか?」


「邪神がシレモンにも試練を与えているのかもしれないね」


「なるほど」


 シレモンも大変なんだな。


「ハヤト、あいつらを狩ってみるかい?」


 えっ!?

 あいつらを!?


 うーむ、どうするか?


 三体を相手にするのは、今の俺ではキツそうだな。


 やめておこうか?


 いや、アレならやれるかもしれないぞ。


 試してみようか。


 スローライフのために!


「やってみます! 失敗したら、援護をお願いします!」


「ああ、任せておきなよ! 思いっ切りやってみな!!」


「はい! では、キュースト、あいつらを脱力させるんだ!!」


 これがうまく決まれば、倒せるだろう!


「ええ~、面倒ッスよ~」


「そこをなんとか頼むよ!」


「仕方ないッスね~」


 キューストが渋々リングァエルたちの方に向かって行った。



「あの~、お三方、ちょっといいッスか~?」


「なんだてめぇはニャ!? すっこんでろニャ!!」


「今は取り込み中だニュ! 消え失せろニュ!」


「てめぇもぶちのめされてぇのかニョ!!」


 けんもほろろって感じだな。


「まあまあ、そう言わずにのんびりしましょうよ~。リラックスッスよ、リラックス~」


「こっちは忙し…… な、なんだニャ? なんだか、だんだん縄張りとかどうでもよくなってきたニャ……」


「争いなんてやめて、ゆっくりダラダラしましょうね~」


「ああ、争いなんてくだらないニュ…… そんなことより、昼寝をした方が良いニュ……」


「そうそう、昼寝しましょうよ~」


「ね、眠いニョ…… おやすみなさいニョ……」


 えっ!?

 リングァエルたちがひっくり返って寝てしまったぞ!?


 あれがキューストの力なのか!?


 これはすごすぎないか!?


「ほう、これはすごいもんだねぇ」


「そうですね。ハヤト君、良い魔法を購入したようだね」


 院長とトレットさんも称賛している。


 やはり強力な効果みたいだな。



 さて、リングァエルたちの奉納部位を回収しないと。


 ……近付いて大丈夫かな?


 俺が近付いたら、突然起き上がって襲ってきました!!


 なんてことにはならないよなっ!?


 ないよね!?

 勘弁してくれよ!!


 フリではないからな!!


 俺はこっそりとリングァエルたちに近付いた。



 リングァエルたちは起きなかった。


 ふう、良かったぁ。


 では、とどめを刺してしまおう。


 リングァエルたちのヘタをもぎ取り、アイテムボックスの中に入れてもらった。


 よしよし、無事に倒せたぞ!


 それにしても、キューストの力はすごいな!


 これならエリンシシも倒せるんじゃないか!?


 そうだと良いなぁ。

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