第5話 運が悪いと
では、リングァエルを探そう!
あっ、そうだ!
みんなにも手伝ってもらおうか!
「うむ、了解したのである」
みんな快く引き受けてくれた。
ありがたい!
よし、行こうか!
おっ、あそこにリングァエルがいるぞ!
長めの草の陰に隠れていやがる。
寝ているのかな?
まあ、そんなのどうでもいいか。
では、捕まえてみよう!
そーっと、近付いてと……
うおりゃぁぁぁっ!!!
俺は両手でリングァエルを押さえ込んだ。
「うぐっ!? お、おのれ、人間めニャ!? なめた真似をニャ!?」
リングァエルが暴れ出した。
うわっ、結構力が強いんだな!?
いや、俺が弱すぎるのか!?
赤子の腕力だからな!?
くそっ、押さえるのに精一杯で、ヘタを引き抜けないぞ!?
どうする!?
そうだ!
シチローに手伝ってもらおう!
「むっ? ワシにどうしろと言うのじゃ?」
「こいつの足に体当たりをしろ! 硬いんだろ!?」
「ううむ、痛そうじゃが、やむを得んか……」
シチローがリングァエルの後ろ足に体当たりをした。
「ぐおあっ!? お、おのれ、余の自慢の足によくもだニャ!!」
自慢だったのか?
まあ、そんなのどうでもいいか!
シチローのおかげで、抵抗する力が弱まった。
今のうちに引き抜いてしまおう!
うぐぐぐぐっ!
なかなか抜けないぞ!?
トレットさんは簡単に引き抜いていたのに!?
今の俺、弱すぎだろ!?
うわっ!?
ようやくヘタを引き抜くことができた。
反動で転倒してしまったがな。
「よ、余がこんな、こ、ど、もに……」
リングァエルが動かなくなった。
どうやら倒したようだ。
ふぅ、なんとか勝てたか。
良かった。
と言いたいところだが、最弱なヤツにここまで苦戦するとは……
先行きが不安だぞ……
おっと、弱気になってはいかんな!
スローライフのためにはやるしかないのだからな!!
「なんとか勝てたようじゃな」
「ああ、シチローのおかげだ。ありがとう。体の方は大丈夫なのか?」
「うむ、少々痛むが、この程度なら問題ないわい」
「そうか。それは良かった」
「ハヤトよ。このリングァエルとやらは、ボックのアイテムボックスに入れておくのである」
「それはありがたい! さっそく頼むよ!」
「うむ、では、使用するのである」
ディディがそう言うと、突然ダンボール箱のようなものが現れた。
色は茶色、大きさは幅一メートルくらい、奥行き八〇センチくらい、高さ一メートルくらいだ。
これがアイテムボックスなのか。
デカい箱だな。
今の俺では身長が低すぎて、中が見えないな。
「これがアイテムボックスである。これと同じものが後四箱あるのである」
「分かったよ」
合計五箱なのか。
アイテムボックスを横倒しにして、リングァエルとヘタを入れた。
手触りもダンボール箱っぽいな。
「では、異空間に移動させるのである」
ディディがそう言うと、突然アイテムボックスが消えた。
こういう能力なのか。
すごいもんだな!!
ん?
中に入れたナマモノは腐るのかな?
ちょっと聞いてみた。
「普通に腐るのである」
そうなのか。
気を付けないと。
「では、次に獲物を探すか!」
「い、いや、もうちょっと休んでも良い気がするのじゃが……」
「そんな暇なんてないって! 行くぞ! スローライフのために!!」
「仕方ないのう……」
「ハヤト、森の方から何かが走ってくるぜ!」
サンクトが警告してきた。
「えっ!?」
俺は森の方を向いた。
なんだあれは!?
巨大な何かが猛スピードで、俺たちの方に向かって来ていた。
あれは俺に突進してくるつもりか!?
回避しないと!!
俺は突進をかろうじて回避した。
あ、危なかった……
気付くのが遅れてたら、直撃して死んでいたかもしれない……
サンクトに感謝だな!
「ほう、今のをかわしますかダス。人間のくせに、なかなかやりますねダス」
突進して来たヤツが声をかけてきた。
そこにいたのは、横に倒れたエリンギのようなキノコに、黒い毛に覆われた獣の足が四本付いている化け物だった。
体高二メートルくらい。
体長三メートル弱くらい。
こいつもシレモンなのか!?
質問してみた。
「その通りですダス。私はシレモンの『エリンシシ』と申しますダス」
やはりこいつもシレモンなのかよ。
語尾に必ず『ダス』と言っているから、二文字ランクなのか?
「さあ、人間よ、死んでもらいますよダス!」
くっ、こんなデカいの、どうやって倒したら良いんだ!?
いや、こいつを倒すのは無理だろ!?
なら、逃げるしかない!
だが、逃げられるのか!?
さっきの突進はすさまじい速度だったぞ!?
あれっ!?
これはひょっとして、打つ手なし!?
詰んでいるんじゃないか!?
人生終了!?
エリンシシが再び突進して来た。
これは避けられそうにない。
終わったか……
ああ、来世ではスローライフができると良いなぁ……
「ぐはっ、な、なんですか、これはダス!?」
突然俺とエリンシシの間に円形の壁が出現した。
茶色い半透明で、直径二メートルくらいだ。
エリンシシは、その茶色い壁に正面衝突したようだ。
えっ!?
なんだこれは!?
「大丈夫か!?」
トレットさんの声が聞こえた。
「無事ですよ!」
「それは良かった。今こいつを倒してしまうからな」
えっ!?
こんなデカいのを倒せるのか!?
「がはっ!? こ、この私がこうも簡単に……」
茶色い壁の向こう側で、エリンシシの声と大きな物音が聞こえた。
これはエリンシシが倒れたのか!?
トレットさんが倒したのか!?
いったいどうやって倒したんだ!?
おっ、茶色い壁が消えた。
もしかして、あれが魔法なのか?
ちょっと聞いてみようか。
「トレットさん、助かりました。ありがとうございます!!」
「どういたしまして。それにしても、運が悪かったね。あいつは森にいるシレモンなんだが、たまにこうして出て来るんだよ」
「そんなこともあるんですね」
「そうだよ。危険がたくさんある世界なんだ。細心の注意を払って行動した方が良いよ」
「はい、肝に銘じておきます。ところで、さっきの茶色い壁はなんだったんですか?」
「あれは僕の魔法だ」
「あれが魔法ですか!? どんな魔法なんですか!?」
「ええと、水で作られた盾を出す魔法なんだ」
水?
それにしては茶色かったけど、泥水を出す魔法なのか?
いや、トレットさんの姿を考えると……
やめておこう。
これ以上は詮索してはいけない。
その方がきっと平和な世界である。
「そうなんですか。では、エリンシシはどうやって倒したのですか?」
「あれも水を使った魔法だよ。尻尾を水の刃で切り落としたんだ。エリンシシの奉納部位だからね」
トレットさんがそう言って、エリンシシの尻尾を見せてくれた。
長さ四〇センチくらい。
太さ六センチくらい。
黒い毛に覆われていて、真っ直ぐ伸びている。
「そんな魔法も使えるんですか!? すごいですね!!」
「ありがとう。まあ、それなりに鍛えているからね」
そうだったのか。
鍛えれば、あんなデカいヤツを倒せる魔法が身に付くのか。
なら、俺もスローライフのために鍛えないとな!!
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