第3話 ゴツーゴ・ウシューギノ・ミルク様様
「うひょああああああっ!! むっ、来たぜ!!」
サンクトの奇声と回転が、ようやく止まった。
三〇分ぐらいやっていたんじゃないか!?
時間かかりすぎだろ!!
「何が来たんだ、サンクト?」
「今のハヤトの情報だ!」
「俺の? どんなものなんだ?」
「それはな……」
俺の体はゴツーゴ・ウシューギノ・ミルクのおかげで、赤子とは思えない状態になっているそうだ。
生後七日目、人間、男。
健康体。
夜にまとまって眠れるようになっている。
首が座っている。
立つことができる、歩ける。
大人と同じ食事を取れる。
歯は近いうちに生えてくる。
目が見える、しゃべれる。
このようになっているらしい。
確かこれだけ成長するのに、二、三年くらいかかるんじゃなかったっけ?
それが飲んだだけで短縮できるなんて!?
ゴツーゴ・ウシューギノ・ミルク、すごすぎだろ!?
まさに神の奇跡だな!!
これでスローライフの実現が早まったぞ!
ありがたすぎる!!
では、さっそく歩いてみよう!
まずは立ち上がってみようか。
おっ、本当に立つことができたぞ!
しかも、普通に歩ける!
あんよが上手になりまくっているぞ!!
素晴らしい!!
ん?
口の中になんだか硬いものが……
これは歯だな。
もう生えてきたのかよっ!?
ゴツーゴ・ウシューギノ・ミルク様様だな!!
さて、これからどうするか?
スローライフを実現するためには、スローライフ邪魔し隊を撃退する必要性がある。
となると、戦闘能力を身に付けなければいけないわけだな。
戦い方を教えてくれる人はいないかな?
とりあえず、情報を集めに行こうか。
いや、それよりも、サンクトに聞いた方が手っ取り早いか?
ちょっと聞いてみよう。
「サンクト、さっきのヤツで戦闘能力を身に付ける方法を聞いてくれよ」
「ハヤト、あれはそういうものじゃないぜ。俺君の見える範囲にある物体の情報を得られる能力なんだ。だから、そういう質問には答えられないぜ」
「そうだったのか」
「ああ、それからあの能力は『
あれが鑑定だったのか。
「分かった。今度からそう呼ぶよ」
そう簡単にはいかないか。
では、地道に足で情報を集めるとするか。
まずは家の中を探索してみよう。
とりあえず、この部屋を改めて見てみるか。
年季の入った木造の部屋。
簡素なベッドが三台。
ベッドには白い清潔そうなシーツと毛布がある。
腰高窓と、木製の片開の扉が一ヶ所ずつある。
窓は二枚のサッシの引き違い窓で、緑色のカーテンがある。
窓から日の光が入っている、どうやら昼間のようだ。
こんな感じだな。
内装から察すると、文明レベルは地球と同じくらいあるのだろうか?
ところで、なんでベッドが三台も並んでいるのだろうか?
そういえば、俺の親はどこにいるのだろうか?
子供を放置しすぎなんじゃないか?
あっ、そうだ!
シチローに両親のことを聞いてみようか。
「ハヤトの親か? それなら、ここにはもう来ないかもしれんのう……」
「えっ!? どういうことなんだ?」
「ハヤトが転生者と分かると、この孤児院に預けて去って行ったのじゃ」
「ええっ!? ここは孤児院なのか!? なぜ転生者だと分かったんだ!? スローライフオーラのせいなのか!?」
「それはワシらを見たからじゃな」
「シチローたちは他人にも見えるのか?」
「見えておるし、声も聞こえておる、触れることもできるのじゃ」
「そうだったのか。ところで、なんで孤児院に預けたんだ?」
「転生者だから、問題ないとでも思ったのかもしれんのう」
「俺は無責任なクズ親から生まれたのかよっ!?」
「そうかもしれんな。だが、ハヤトにはワシらがおるから、あまり思い詰めんようにな」
「ああ、気遣いありがとう」
良いヤツらだなぁ。
さて、他の部屋に行ってみようか。
扉を出ると、食卓と思われるテーブルと椅子が置いてあった。
ここはリビングかな?
奥の方には、地球にありそうなシステムキッチンがある。
やはり文明のレベルは高いみたいだな。
「おや? あんたは昨日の?」
誰かに声をかけられた。
俺は声のした方を向いた。
そこには初老の女性がいた。
肝っ玉の据わったお母さんといった感じの人だ。
この人は孤児院の職員の方かな?
とりあえず、挨拶をしておこうか。
「どうも、おはようございます」
「なんでしゃべってんの!? それになんで立ってんの!?」
驚いているようだ。
異世界でも赤子が立って、しゃべるのは不自然みたいだ。
俺は事情を説明した。
ついでに自己紹介もした。
この方の名前は
なんというか……
すさまじい名前ですね。
この孤児院の院長だそうだ。
そして、この孤児院は『ドビンボウ孤児院』という名前だそうだ。
ド貧乏って!?
もっと他の名前はなかったのかよっ!?
「スローライフをしようとしているのかい!? そいつは大変だねぇ!」
「やはり大変なんですか?」
「大変だよ! ただでさえ『シレモン』たちが襲ってくるというのに、さらに敵が増えるなんて!」
襲ってくるヤツが、他にもいるのかよっ!?
「シレモン!? それはなんですか!?」
「『生物たちに神の試練を与えましょうの会』という集団に所属しているモンスターたちを『シレモン』というのよ。シレンを与えるモンスターだから、シレモンなのよ」
ナンダソレ!?
カスクソ邪神が用意したのか!?
とんでもない世界なんだな!?
ますます戦闘能力が必要じゃないか!?
「早く強くなる方法はありませんか?」
「早くねぇ。一番早いのはシレモンを倒すことだよ。当然危険だけどね」
「シレモンを? なぜそれが一番なんですか?」
ゲームのようにレベルが上がるのだろうか?
「シレモンの体の一部をカスクソ邪神に奉納すると、魔法を覚えられるのさ。神の試練を乗り越えた褒美らしいよ」
「魔法!? それって、手から火や水を出したり、風を起こせたりするんですか!?」
「ああ、そういうものもあるよ」
「おおっ!! そいつはすごい!!」
魔法があるなんて、夢のようだ!!
素晴らしい!!
「そんなものばかりではないんだけどね…… むしろ……」
院長がそうつぶやいた。
「えっ!? どういうことですか!?」
「ん? 魔法のことを知りたいなら、そこの物置に入門書がある。読んでみな」
院長が扉を指差しながら言った。
「はい、分かりました!」
よし、さっそく読みに行こう!
物置に入った。
棚、タンス、積み上げられたダンボール製のように見える箱が置いてある広め部屋だ。
さて、魔法の入門書はどこかな?
「院長、シレモン狩りにいってきますね~!」
「ああ、気を付けなよ!!」
部屋の外から、聞き覚えのない人の声と院長の声が聞こえてきた。
誰だろう?
職員の方か?
それとも先輩なのか?
まあ、どちらにしろ挨拶はしておいた方が良いだろう。
それにシレモン狩りというのも気になる。
名前通りのものだとしたら、スローライフ実現のために見学しておいた方が良いだろう。
本は帰って来てからでも読めるしな。
よし、行こうか!!
物置を出て、声の聞こえてきた方を向いた。
ええええええええっ!?
な、なんだあれは!?
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