第23話

 あの男はなんだ、そしてあの男は一体何をしているんだ。男の周りを多くの盗賊たちが囲んでいるためはっきりとは状況が分からないが、それでもあの男がこの盗賊たちを相手にして互角以上の実力がある事だけはわかる。


 しかし何だあの動きは、盗賊の隙をついて急接近しては何もせずに距離を取る。確かに不意を突かれたとはいえ僕が遅れを取ってしまう程に手練れの盗賊たちだが、それでもあの男の速さなら心臓にナイフを突き立てるなんて容易いはず・・・・いったいどうして。


「ちっ、何なんだよこいつ!鬱陶しい!」


「おい!こいつの目的はあの騎士だ、近づけさせるんじゃねぇぞ!」


 あの男の目的は僕?どうして?

 お嬢様を攫うのは許せないが、それでも盗賊の目的としては理解できる。でもただの騎士でしかない僕を危険を冒してまで連れ出そうとする理由はなんだ。まさかただ本当に僕たちを助け出すため?

 そういえば男と一緒にいた女の発言も妙だった、まるで私たちを助け出そうとしてるだけのような・・・・わからない。わからないけどそれならなおさら僕じゃなくてお嬢様の事を助けてほしい。


 ―――――――――――――


「おい君!僕の事はいい!お嬢様を、お嬢様を追ったやつが何人かいる!そいつらを先に止めてくれ!じゃないとお嬢様に危険がっ」


 ボロボロの体で倒れていた騎士様が突然大きな声で叫ぶ。おいおい全然元気じゃないか、なんていうふざけた感想が出る俺はこんな状況なのにもかかわらず意外と冷静なようだ。これも恩恵の効果何だろうなと感心する。


 しっかしまぁすごい忠義心だ。自分の身の危険よりお嬢様の事を案ずるなんて、そうそう簡単にできることではない。

 なんて健気で・・・・ちょっと待て、お嬢様って誰だ?この場にお嬢様と呼べそうな人物なんて存在しない。いるのはむさ苦しい殺気むんむんの野郎どもが数十人とボロボロの状態の騎士様のみ。となってくると騎士様のセリフから推測するに、お嬢様とやらはヨルムルが抱えていったあの少女という事になる。


「おいおい、まじかよ」


 つい口からそんな言葉がこぼれる。確かに身形や言葉遣いは盗賊のそれらとは違っていたとは思うが、それがまさかお嬢様ときた。ヨルムルはこのことを知ってこんな無茶をしたという事か、つまりあの蛇女とお嬢様は顔見知り、と。


 てかやっぱり俺関係ねぇじゃねぇか!なーにが『悪い様にはならん』だよ!俺の事利用しやがって。あぁなんかそれが分かった瞬間にむかついてきた。後で一言物申してやる。そうと決まればいつまでもここで時間取られてるわけにいかねぇ。


「騙しやがったな!蛇女!」


「ぐぉ!?」


 俺はナイフをしまい、先ほどまでと同じように盗賊たちへと詰め寄り顔面に拳を食らわせる。拳を喰らった盗賊は吹き飛び後ろにいた奴らも何人か巻き込んで団子状態になった。これなら殺さず無力化できる、最初からこうしておけばよかったのだと気が付く。


「だ、だから僕よりもお嬢様の所へ!」


「うるせぇ!俺の気持ちの問題だ!」


 盗賊たちをバッタバッタと倒していると騎士様がまたお嬢様をと叫ぶのが聞こえた。しかしその言葉に従うわけにはいかない。ここで置いていったら絶対にあの蛇女に一言言ってやることも出来なくなるからだ。


「全員でかかってこい、ぶっ殺してやる!」


「っの野郎!!」


 数十人といた盗賊たちは見る見るうちに数を減らし、ついにはリーダーっぽいやつ一人となった。その盗賊リーダーはこちらにひきつった笑みでナイフを向けるが、もうそれに怯えている時間も勿体ない。身体強化の時間ももう限られている、早く終わらせようと最後の男に向かって走り出そうとしたその時、足首を掴まれてしまい体勢を崩してしまう。


「この野郎っ」


 どうやら足元で転がっていた盗賊の一人が最後の気力を振り絞って邪魔をしてきたようだった。しかしその程度では相手と俺の距離を縮めることすらできない。無駄なあがきだ、そう思っていたがどうやら目的は俺に近づく隙を作るためではなかったらしい。


「ぐっ、離せ・・・」


「離すかよ、人質が近くてラッキーだぜ」


 そう、目的は騎士様を俺の手に渡らせないよう人質にとる事だったのだ。これはまた困ったことになった。

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