第22話
「甲冑を着た緑髪の者を探すのじゃ!よろしく頼んじゃぞ」
「な?!おい待てそんな余裕あるように見えるかってもういねぇ!!」
あの蛇女どこまでも勝手な奴だ。この何十人もの盗賊相手でこっちは手いっぱいだって言うのに、そんな中で人を探せと仰りやがる。
さてどうしたものか、ヨルムルの言った通りあと一回ナイフを舐めれば周囲の盗賊たちを無力化するのは何とかできるとは思う。だが問題はその後の後遺症だ、既に一回舐めてしまっているため次舐めれば二度舐めになってしまう。そうなれば確実に以前のような痛みが襲ってくるのは火を見るより明らかだ。
もしその痛みに悶えてる間に盗賊たちの増援が着たらと思うとぞっとする。
「俺たち全員を相手にして生きて帰れると思ってんのかぁ?とんだお笑いだなぁ!」
「おい、何人かは逃げた女を追え。折角の上玉をみすみす逃がすんじゃねぇぞ」
盗賊団のリーダーらしき人物が、ヨルムルたちを追うように数人の男たちに声をかける。こいつらを行かせてもあの蛇女なら大丈夫だろうとは思うが、どうせ行かせたら後で小言を言われるような気がするので、できれば行かせたくない。
「お、じょうさま・・・どうか、無事で」
身体の痛みを選ぶか、はたまたヨルムルからの小言を受け入れるか。選択肢は2つに1つなのだが、そんなことを考えていると今にも消えてしまいそうな弱弱しい声が耳に入った。
一体だれが、そう思い周囲一帯に広く視線を動かす。すると俺を取り囲む盗賊たちよいりもさらに向こう側に地面に伏している人の姿が目に映った。すぐに盗賊たちの陰に隠れてしまったが、緑髪にボロボロな鎧のようなものは確認できた。恐らくヨルムルの探せと言っていた目的の人物で間違いないだろう。
「なぁ盗賊さんたち、俺はできれば人を殺したくない。だから後ろで伏してる人を引き渡して穏便に済ましてくれないですかねぇ」
「あ?今更何言ってんだ?そんな提案乗るわけねぇだろ」
まぁそうだろうな。この人達に俺を逃がすメリットが一つもないんだから。こうなるとやるべきことは副作用覚悟でもう2回ナイフを舐め、短期決戦で決めるしかない。この身体能力強化が、今の所どの程度の時間で切れるのかがはっきりしてないのであまり時間をかけられないのだ。
俺は手に持ったナイフを再度口元に近づけ雑に二回舐める。川の水で洗ったりはしているものの、こんな不衛生なもの舐めていたらそのうち変な病気にでもかかりそうだ。
「それじゃあ、交渉決裂だな!!」
ダンっと地面を蹴り急加速、俺の急激な動きの変化に盗賊たちは対応できず反応が遅れる。そんな奴らが驚愕している間にも俺は盗賊の一人に急接近し、首にナイフを突きつけている。後はこのナイフで首を掻っ切れば一人減らせる。
「何者だよお前は!」
「っ!」
首にナイフを当てていた男が俺を突き放すために無造作に蹴りつけてきた。それ自体は今の強化された俺にとっては遅すぎるので簡単に避けれる。だが問題はさっきのだ、盗賊の男にナイフを突きつけた後、殺せる時間はいくらでもあった。でも俺はそれをしなかった、いやできなかったのだ。
人を殺す。言うだけなら簡単だ、誰にだってできる。でもそれを実行する度胸は俺にはなかった。
「・・・・人を、殺す?」
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