第21話

 周囲が騒がしい、一体何事だろうか。そして私はどうして眠っていたのだろうか。

 最後に見た景色は、確かクルアと共にパドゥドゥの街へと急いでいた時にまたあの盗賊たちが襲撃してきて・・・・そうだ、まんまと奴らに捕まってしまったんだった。という事はこの騒ぎは盗賊団の連中が宴でも開いているのだろう、私の現状は後ろ手で拘束されているだけみたいだが、この体を弄ばれ殺されるのも時間の問題だろう。


「・・・誰か、助けてっ」


 ついつい弱音がこぼれる。

 王族の娘としてこれからだというのにこんな場所で弱音を吐いていられない、今回だってお父様に任された重要な任でこのような場所へと赴いた。なのにこんな不始末のうえ、傷物にされたとなってはたとえこの場を切り抜けれたとしても王家の者に合わせる顔がない。

 そんな風に現在置かれている状況に絶望して藁にも縋る気持ちで、そんな中脳裏によぎったのは数日前に私たちの前に現れた一人の男の顔。あの時は偶然とはいえ窮地を救ってくれたが、あんな盗賊に縋るなんて相当追い込まれてるのだろうか。


 ・・・・あの男もこいつらと同じ悪党だって言うのに


「大事ないか?王女様?」


「っ!?何者ですか」


 途方もない絶望の中でどうすればいいかを考えていると突然耳元に声を掛けられ、思わず身体をびくりと震わせてしまう。しかし視界を塞がれ相手の正体がわかってない今下手に弱みを握られるわけにはいかないと、すぐに毅然とした態度をとった。


「そう警戒せずともよい、童は味方じゃ」


 声の主にどうやら敵意はないようだが、この人を信用できるのかと言われたら正直信用に足る情報はない、とはいえ今の状況から脱したい私にとっては願ってもいないチャンスであるのも事実だ。ここはおとなしく従っておいた方がいいと結論付けた私はその声の主の言葉の通り行動することにした。


「安全な場所まで童が運ぶ、しっかりつかまっておくのじゃぞ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 この女性の言うとおりにするとは言ったものの、一つだけ確認しておかなければならないことがあったので慌てて尋ねる。


「クルアを、緑髪の甲冑を着た者を見ませんでしたか!私と共に捕まっているはずなんです!」


 恐らく私と共に捕まっているはずのクルアのことだ。もし彼がまだ生きているのならば私が一人だけで逃げ出すわけにはいかない。こんなことを言っているのを彼が見たらお嬢様だけでも逃げてくださいというだろうけど、可能性があるのならあなたも救いたいというのが本心なのだ。


「ん?そんな奴は見ておらんな」


 そんな・・・まさか既に殺されてしまったというのだろうか。そんなの信じたくない、信じたくはないが盗賊たちにとって必要なのが私だけなのであればその可能性の方が限りなく高い。

 彼までもが私を置いていなくなってしまった、どうしてこんなことにと悔しさと悲しさとが混ざって感情が分からなくなり、最後には必死に塞き止めていた何かが決壊してしまい大粒の涙がボロボロと溢れ出してしまう。


「な、なんじゃ!?何故泣く!?」


「ク”ル”ア”はっ!クルアはっ」


 弱みを見せないとは何だったのかというほどにとめどなくあふれる感情。そんな私の豹変ぶりに私を抱え上げている人が困惑しているさまが見えずとも伝わってくる。


「わかったわかった!そ奴も探してやる!じゃから今は童の体に捕まっておれ!」


 もし探し出せたところで生きているという保証はない。それでももしまた彼の事を一目見ることができるのなら、という安心感が私を少しだけ落ち着かせた。


「・・・・わかりました」


「おいロー!そ奴らをどうにかしたら緑髪で甲冑に身を包んだ者を探すのじゃ!頼んじゃぞ!」


 そんなことを突然伝えられた男は不満そうな声を上げるが、相手にはされていない模様だった。

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