第19話

 ヨルムルが感じ取っているという人の気配を頼りに案内されるがままに森の中を進み続け、本当に人の声が聞こえてくる場所へとたどり着くことができた。つまり町が確実に近づいているという事である。


「そういえばあんたは人の街に入っても大丈夫なのか?」


 街が近づいてきたという事で少し疑問だったことを彼女に聞く。この世界の基準がどういった感じかわからないが、人も人外も同じような生活圏で暮らしているのだろうか。もし互いに相いれない関係だとするのならば、ヨルムルを連れて人の街に入るのには不都合が生じるだろう。


「ん~そうじゃな。問題さえ起こさなければ大丈夫じゃ、まぁ中には純粋なヒューマン以外受け付けないような奴もおるがな」


 今ではそういうやつの方が稀じゃ、と笑いながらヨルムルは言う。それなら問題はなさそうだ、これでヨルムルが原因で街に入れないなんてなっていたら、人としての尊厳を捨て去ることになっていた。セーフだ。


「正直童より心配すべきはお主の方じゃ」


 これなら町に入って人の生活に戻れると胸をなでおろしていると、ヨルムルが何やら不穏なことを言い出した。


「・・・・なんで俺?」


 俺は転生者という特殊な境遇であるとはいえ、見た目も中身もそれこそ純粋なヒューマンと言って遜色ない。ヨルムルのような人外に嫌われるならまだしも、同じヒューマンにのけ者にされる理由がわからない。

 もしかして盗賊って言うのが駄目だったりするのだろうか。だとするならあの女神め、絶対許さん。


「そうお主は盗賊じゃ。ま、盗賊と言うだけで街に入れなくなるというわけでは無いのじゃが、問題はお主が一文無しだという事」


 何だそういう事か、金が無いことを心配してくれていたのか


「それなら心配ない町に付いたら仕事を探すつもりだ」


 そういうとヨルムルはどこか呆れたように息を吐きだすと、語って聞かせるように話をする。


「よいか、盗賊とは犯罪者の俗称に他ならぬ。強盗、窃盗、殺人、そういったことを平気でやる奴らの事を総じて賊と呼ぶのじゃ。お主がまだそういったことをしていないとしても、お主を転生させた神によってお主はこの世界では賊として扱われる」


「つ、つまり?」


「どんな問題を起こすかわからない犯罪者を傍に置いておきたいと思うか、つまりそういう事じゃ」


 ヨルムルの言ったことが今の俺のすべてを現していた。街へは問題なく入れる、しかしその街で生活するには多かれ少なかれ金が要る。だがその金を得る手段が無いという事だ。


「お、終わった・・・」


「諦めて盗賊として生きればよいじゃろ」


 はっはっは、とヨルムルは楽しそうに笑っている。本当にこいつは人の不幸が好きだなともう突っ込む気にもならない。普通の稼ぎ方はできない、とはいえ人としての生活をしようと思えば犯罪に手を染めなくてはならない。


「あぁもう!どうしろって言うんだよ!」


 頭を抱えて悩むのは何時ぶりだろうか、前世ではもう悩んで生きていくのが馬鹿らしくなって毎日を適当に生きていたが、この世界では適当に生きてるだけではまともな生活すらできないようだ。


「はぁ、とりあえずは町へ行く。もしかしたらがあるかもしれないしな」


「了解じゃ、冒険者の選択もあるしひとまず行くだけでも価値があるじゃろ」


 町へ行く以外の目的が見当たらなかったというのもあって、とりあえずは引き続き近くの街を目指すことを提案する。揶揄ってはいたくせにヨルムルも異存はない様で俺の提案に同意してくれた。


「おっ、そこを抜けたところに複数人の気配があるぞ。」


「やっとまともな人に会えるのか」


複雑な心境のまま俺たちは声のする方へと進んだ。

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