第16話

「何じゃああやつ、逃げ足ははやいのぉ!じゃがこの森で童からそう簡単に逃げられると思うでないぞ」


 目にも止まらない速さでその場から離脱したローに対して驚愕の表情を浮かべるヨルムル。しかし驚愕の表情はすぐに獲物を狙う捕食者のものに代わる。

 それも当然、ここ魔獣の大森林は怪蛇ヨルムルにとっては庭のようなもの、ローとはこの森で暮らしている年数が桁違いなのだ。どこへ逃げようともこの森から出ないうちは彼女の掌の上、逃げるのは容易ではない。


「まぁ退屈しのぎにはちょうど良い、ちと遊んでやるかの」


 そういうと木へと飛び上がり、ローが逃げた方を確認した後木々の間を飛ぶように移動していった。


 ――――――――――――


 身体が痛い。走れば走るほど腕や足、頬に切り傷が増えていく。

 一体俺の身体はどうしてしまったのだろうか、あのヨルムルとかいう人食い蛇女から逃げるためにナイフを舐めた回数は4回。あのカマキリのモンスターと戦った時ですら3回だったというのに、さらに1回多く舐めてしまっていた。つまりあの時以上に俺の身体は限界突破してしまっているという事。

 あの蛇女がそれだけヤバいやつだと感じたからなので仕方が無かったのだが、あまりにも体が軽くなりすぎて自分の身体なのに制御ができない、まるでスポーツカーにでもなった気分だ。


 あの場所から無我夢中で10分ほど走り続けただろうか、これだけ規格外のスピードで逃げたのだ、流石にそろそろ大丈夫だろうと足を止めよう。そう思いゆっくりとペースダウンしていく。


「おや、もう終わりか?それじゃあお主の体を頂くとするかの!」


「なにぃっ!?嘘だろ!?」


 ようやっと一息つけると思ったところであの蛇女の声がすぐ後ろから聞こえてくる。そんなまさかと思いつつも振り返った所で、もう目と鼻の先まで彼女が迫っていた。それを何とかぎりぎり上体を反らすことで逃れるが、無理に体を捻ったことで一瞬ふらついてしまう。


「足元がお留守じゃ、ぞ!」


 その一瞬の隙を逃してくれるはずもなく、蛇女は一度地に足をつけると急旋回してこちらに飛ぶように接近し、こちらに足払いを仕掛けてくる。彼女の足がガッと俺の足を捕らえ、完全に体勢を崩してしまい背中から倒れる。


「チェックメイトじゃ」


 倒れた俺の上に馬乗りになり、両腕で地面に押さえつけてくる。

 まだ恩恵の効果は切れていない。なのにおさえつけられた腕はピクリとも動かすことができない。恩恵で身体能力が強化されているにもかかわらず、蛇女の方が実力が上だということが証明される形となった。


「変態って言ってごめんなさい!どうか許してください!食べないでください!」


 何が最強の能力だ、やっぱり自分の力を過信するんじゃなかった。

 上には上がいる、ナイフを舐めるとかいう意味不明な発動条件な時点で最強な訳なんてなかったんだ。もう悔い改めます、変なことしません。悪いこともしません、だからどうか助けてください死にたくなーい。


「いただきまーす」


 拝啓父さん母さん、やっぱり僕もうだめみたいです。

転生という名の地獄へと落とされていたようで、現在女性の見た目をした蛇に首に牙を立てられ血を飲まれています。おそらくはこのまま血を吸いつくされ、肉まで貪られて息絶えると思います。

 一体何を言ってるかわからないかと思いますが、僕も分りません。誰か答えを知っていたら教えてください、もしそういった時の対処法を知ってるよーという方はお手数ですがこちらの連絡先に・・・・・・




「いつまで倒れておるのじゃ、はよ起きんか・・・・って死んでおるぅ!?」


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