第15話

 姿形は人間の女性だが透き通った水色の鱗肌、それ以上に際立つのは鋭い目つきでそれは爬虫類そのもの。腰までの伸ばした長い髪は肌の色とは違い、少し紫がかった色をしている。それが意思を持っているのかのように動いているのはすこし気味が悪い。


「・・・・服着なよ、変態」


「だから誰が変態じゃ!」


 またしても腹に一撃拳を入れられてしまった。

 なぜ俺が殴られねばならないんだ、だって髪で大切な部分は隠してるつもりだろうけどこんな自然の中で全裸なのはどう考えても変態以外の何でもないだろう。


「童は怪蛇かいじゃ、名をヨルムル。断じて変態などではない」


「じゃあ服着てくれよ、目のやり場に困る」


 全裸のまま自己紹介されても頭に入ってこない。相手が人外の者だとわかっていても、そのプロポーションは胸以外かなり整っており健常な男の目には少し刺激が強すぎるというものだ。


「初心な奴じゃのぉ、これでよいか」


 流石に俺が話に集中できていないことを察したのか、どこからともなく胴の胸当てと皮のパンツを取りだし身に着けてくれる。どういう技術なのかわからんがそれは後で聞くとしよう。

 ようやくまともな格好になってくれたのでこれで集中して話を聞ける。


「では改めて、童は怪蛇ヨルムル。血をすすり、魂を喰らう最強の蛇竜じゃ。人間共は童を恐れるがあまり、寒色の蛇には近づくななどと言うてるらしいが童もむやみやたらと食っているわけではないのじゃがの」


 ヨルムルと名乗った蛇女はそういってけらけらと笑う。むやみやたらと食っているわけでは無いと言うが、人を食っていることを否定していない時点でかなり危険だという事はわかる。


 てかなんだよ寒色の蛇には近づくなって、そんなお触れがあるなら俺も事前に教えておいてほしかった。まぁ人に出会う機会すらなかったので、その事前情報をしいれることはかなうはずもなかったのだけども。


「そ、それでヨルムル様はどうして私目にお近づきになられたのでしょうか?差し支えなければ私目にご教授いただければ嬉しく思います」


「何じゃ気色悪い、さっきまで変態だ貧乳だぬかしておったのにどういう心変わりじゃ?」


 ヨルムルは引き気味に気味の悪いものを見ているかのような表情を浮かべる。


 そりゃこんな化け物の機嫌を損ねでもすれば次こそ俺の命はない。先ほどまでは面白おかしく許してくれていたが、いつ気が変わるかは分かったものじゃない。ならば彼女と別れるまでの間気を損ねないように振舞うしかないのだ。


てか貧乳とは言ってねぇよ


「まぁよい、それで主に近づいた理由だったか。それはもちろん」


 そこまで言うと口元を歪ませ長い舌をチロチロと動かし、口の端から涎をこぼす。瞳は細められているがこちらを逃さないようにじっと見つめている。どう考えても変質、いや捕食者の顔をしているのだ。


 ごくりと生唾を飲み込み彼女の次の言葉を待つ。ただの獲物としてみていたのなら最初に出会った時点で殺され捕食されているはず、目の前で明らかにやばい顔をしている彼女がこれ以上恐怖を煽るようなことを言わないことを祈るが。


「もちろん、お主の血がうまかったからに決まっておろう」


「ヒュッ」


 あ、変な声出た。しかしこれ以上ここにいてはやばい。そう思うが早いか不格好なことはわかっているが震える手を何とか抑え込み、腰のナイフを取り何度か舐めた後、大地を蹴って走り出した。

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