第14話
『あっ!これ!引きはがそうとするでない!』
「うるせぇ、お前みたいな怪しいやつ一緒に連れていきたくないんだよ!」
周りに人がいたとするならば蛇と取っ組み合いをする変わった人間として写真を撮られるか、はたまたドン引きして距離を置かれるだろう。最悪の場合は警察に通報されるかもしれない。
まぁ今は誰一人近くにいない森の中なので何の心配もないのだが、やばいことをしているという自覚は持っておくに越したことはない。
『どうでもいいこと考えておらんと童の身体を離さんか!』
くっそぅ、本当にやかましい蛇だ。というか蛇の癖に喋るんじゃない、慣れない光景に頭が混乱してしまう。
人間とは自分が処理しきれない、自分の常識の範疇にないことは忌み嫌う習性があるのだが、悲しいことにどうやら俺にもその習性があったようだ。あまり悪意のあるようには見えないがここは化け物の闊歩している世界、用心してかかるのにやりすぎという事はないだろう。
「というわけだから離れてくれ!いや下さい!お願いします!」
『何がというわけかわからんが、いーやーじゃー!』
ダメだこの蛇、俺の何が気に入ったのかまるで小学生の駄々っ子みたいに体にまとわりついてくる。こっちは既に限界で無駄に体力を使いたくないというのに、このままでは埒が明かない。
少なくとも話し合いはできそうなので、仕方がないのがまずは落ち着いて話を聞くことにする。
「わかった、とりあえず話をしよう」
『やっと対話する気なったか盗賊』
蛇の癖に少し高圧的な態度が気に食わないが、それでも話が通じるだけましか。そう思う事で自分を律し話を続ける。
「それで、蛇さんは何者で、なんでそんなにしつこいのでしょうか?」
『なんじゃ盗賊、こういう時は自分から名乗るのがお主ら人間の常識というやつじゃないのかの?』
何だこの蛇野郎、一丁前に常識だ何だと・・・俺より常識的じゃねぇか。
「そうだな、俺はロー。つい最近この世界に転生させられた可哀想な人間。今は街を探してる最中だ。というわけで俺は行くよ」
ある程度搔い摘んで自己紹介をして蛇の横を通り過ぎて歩き出す。嘘はついていないがフルネームは恥ずかしすぎるので、あえてローの部分を名乗ったが別に問題はないよな。
『ふむふむ・・・・ってちょっと待たんか』
くっやっぱり駄目だったか。
どうにか流れのまま通り抜けれると思ったのだがそう思い通りにはいかなかった。ちょうど蛇の横を過ぎ去ったあたりで、俺が何処かへ行こうとしているのに気が付いた蛇に肩を掴まれてしまう。
「え、肩を掴まれる?」
肩に感じる感触に違和感を覚える。
だって後ろにいるのは蛇で、他に誰もいないのは先ほど確認済み。なら一体この肩に感じる人間の掌に捕まれたような感触は誰のものだろうか。
いや手の感触に感じるだけで、実際はあの蛇が肩に・・・いやあの体の形でどうやって肩を掴むんだ?できて巻き付くか、噛みつくだと思うのだがどう考えてもそのような感触ではない。
いやいやまさかな。そんなおとぎ話の世界じゃないんだから動物が人に化けるだなんてそんなことあるわけない。そんなことがあっては今度こそ壊れかけていた俺の常識が粉々に崩れていく自信がある。
『ど・こ・に・い・く・の・じゃ?』
ギチギチと肩にかかる圧力が増す、恐らく怒ってらっしゃるかぁ。これはもう相手がどんな姿だったとしても真実を受け止めるしかない。
期待半分、恐怖半分の不可思議な感情を心に渦巻かせながらぎこちない動きで首を後ろに向ける。そしてそこにいたものの姿に思わず叫び声を上げる。
「変態だぁぁぁぁぁ!?」
『誰が変態じゃボケ』
やはり怒っていたようで、思い切り殴られてしまった。
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