第13話

「おー、よしよしよしよし。可愛いなぁお前は」


 深い森の中、小さな生き物と戯れるハゲ頭の男がいた。傍から見れば少し危険な人物に見えるかもしれないが、安心してほしい。


 正体は勿論、俺だ。


 盗賊を撒いた後も開けた場所を探してさまよっていたところ、小さい蛇に襲われた。襲われたといっても先に手を出してしまったのは俺なのだが・・・


 腹も減っていて気を張るにも疲れていたのだろう、いつもなら手元足元に注意を払いながら道を進むのだが、その注意を疎かにしてしまったために蛇が休んでいるとは気づかずそのすぐそばを踏み抜いてしまったのだ。


 蛇自体を踏んだわけではないと思うが、テリトリーに侵入してきたものに攻撃するのは何も不思議なことではない。当然蛇は怒りこちらへと襲い掛かってきたというわけだ。


 なら何故そんな襲い掛かってきた敵意むき出しだった蛇を撫でまわし、ペットのように可愛がっているのかというと、一度嚙んだ後どういうわけか蛇の興奮が冷め、まるで謝るかのように頬へと頭を擦り付けてきたのだ。


 最初こそ噛まれた恐怖と、身体を上ってくる恐怖で振り払おうとしたのだがそんな人懐っこい行動をされてはもう乱暴なことはできない。蛇が満足するまで好きなようにさせてやり、俺も指で蛇の頭をゆっくりとなでる。


「そろそろ満足したか?」


 十分ほどじゃれあいそろそろ腕が疲れてきたところで、未だちろちろと舌で首筋を舐める蛇を掴んで引き離そうとする。

 しかし蛇は長い体を俺の首に巻き付けなかなか離れようとしない。こんな細い体のどこにそんな力があるのかわからないが、このまま無理に引っ張れば首を絞められてしまいそうだ。


「ついてくるのか?」


 どうしても離れようとしないので軽く声をかけると蛇はどこか嬉しそうにシャララと音を鳴らす。その愛嬌のある姿に結局引き離すのは諦めて手を離す。蛇ってこんなかわいいものだったんだな。

 前世で会ってたら間違いなく走って逃げていた気がするが、この世界に転生してからいろんなものに出会いすぎて多少なりとも耐性がついてしまったようだ。


「ていうかお前さっき噛んだけど毒とかもってないよな?」


 蛇は小首をかしげる。まぁそりゃあ何言ってるかわからんよな。

 しかしそれにしても綺麗な色をしている蛇だ。ジャングル何かでは派手な色をした生き物は毒を持っているものが多かったりするのが定番、この蛇の色は透き通るような水色に少し濃い青色の筋が入っているので毒持ちでないかだけが心配だ。


 まぁ今のところ体のしびれも感じないし、それどころか身体から疲れが取れているような気さえする。久しぶりにかわいいものと触れ合えて心に安らぎが生まれたのかもしれない。


「さて、また日が落ちる前に街を目指すか」


『なんじゃ、街を探しておるのか』


「あぁもうそろそろ人の生活に戻りたくてな」


『はっは!盗賊の癖に人並みの生活に戻りたいとはおかしな奴じゃ』


「うるせぇ、俺はまだ強盗も人殺しもしてねぇんだ」


 って俺はさっきから誰と会話しているんだろうか?この場にいるのは俺と先の蛇のみ、近くに人やほかの生き物がいる気配はしない。背筋をぞわっとした感覚が襲う、こんな真昼間から見えざる者が現れるのか、いやありえない。

 幽霊や妖怪なんて存在しない、どうせ何かと聞き間違えただけだ。


『どういうわけか知らんが、話をするときはこっちを見んか馬鹿者』


 何故か怒られたので声のする方へとしっかりと顔を向ける。そこには舌をチロチロとさせながらこっちを向いている青い蛇の姿がある。


「しゃべったぁああああ!!?」

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