第12話
「おい、あのハゲ頭は見つかったか?」
「いいや、こっちもだめだ」
「確かにこっちの方に逃げたはずなんだがなぁ、まぁいいもう少し探して見つけ次第ぶっ殺せ」
「わかりやしたぜ兄貴!」
物騒な会話をしながら男たちは森の奥へと入る。そしてその男たちの向かった先とは別の木陰に怪しい影。
「・・・・行ったか?」
勿論俺だぁ。
数日前もまったく同じような隠れ方をした気がするが案外何とかなるものだ。そして今回は前回の反省を生かし、確実にこの周囲を去ったのを確認するまで動かない。以前はしっかりと確認しなかったがためにひどい目にあった、もうしばらくじっとしているのが正解だろう。
木陰に身を隠してから数十分の間、俺の考えていたことは見事に的中しており何度も盗賊たちが近くを探し回っていた。息を殺していたのと、運よくこちらの方まで捜索の手を伸ばしてこなかったので見つかることはなかったが、生きた心地はしなかった。
「今度こそ大丈夫そうだな、そろそろ移動するか」
周囲から物音が聞こえなくなりさらに十分ほど経った、どうやら流石に諦めてくれたようだ。
能力の反動か、はたまた同じ体勢で長い時間過ごしたせいか、足腰が滅茶苦茶痛い。しかし先日の動けなくなるほどの痛みではないので、重ねがけで人外レベルに身体能力を上げない限りはほどほどの痛みで済むようだ。かといって乱用は避けるべきだろう。
「しっかし、さっきの林道はどっちだ?」
重い腰を上げ辺りをぐるりと見渡すが、逃げてる間にまた森の深いところに戻ってきてしまったらしい。盗賊たちがいた場所は少し開けていて、ちゃんと道として使われているように見えた。
つまりあの道を通れば少なくとも森を抜けれるはずだったのだが、来た道を完全に見失ってしまった以上また振り出しだ。
結局街の場所も分らず、食料も得られず、盗賊に追われたせいで体力もかなり消耗した。これぞまさに踏んだり蹴ったりってやつだ。
「せめてさっきの林道の方角が分かればいいんだがなぁ」
どうするか考えているとお腹がぎゅるるると音を鳴らす。満足な食事にありつけず、無駄に体力だけは消費していくそりゃ腹も減るわけだな。
気は乗らないがここでじっとしていても埒が明かない。また当てもなく歩き回るのかと思いつつその場を後にする。
―――――――――――
「お嬢様!大丈夫ですかお嬢様!」
「え、えぇ。少し擦りむいただけで私は大丈夫でしてよ」
ローとそれを追っていった盗賊たちが皆いなくなった林道で、まだ残っている者たちがいた。一人は白銀の甲冑を身に纏い焦りの表情を浮かべたもの、そしてもう一人は先ほどローに人質にされた挙句突き飛ばされたブロンド髪の少女。
「一体全体、これはどういう状況なんですの・・・・」
ブロンド髪の少女は目まぐるしく変わる状況に、脳の処理が追い付いていないのか命の危機が去った今でも放心してしまっている。
「そ、それが僕にもなにがなんだか。新手の盗賊がお嬢様を人質にしたかと思うと何故か仲間割れをはじめまして、最後は全員そろって森の方へと行ってしまいました」
「・・・・そう。さっぱりわかりませんわね」
「・・・はい」
盗賊共に数で押され、ただでさえ苦戦を強いられていた中で人質まで取られるという絶望的な状況だったはずなのに、気が付いたら2人そろって無事に生存している。すぐに状況を理解しろという方が難しいだろう。
「何にせよ状況は好転しました、今のうちにこの場所を離れましょう」
「そうね」
二人は今理由を考えても仕方ないと、盗賊たちが戻ってくる前に道を進むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます