第10話
「・・・!!」
声のする方に近づくにつれて話している内容がはっきりと聞こえてくる。最初聞いたときは男女で楽しくはしゃいでいるのかと思ったが、どうやらそうではなく、トラブルっているようだ。
『——————逃げ』
『二人で―――同じ――です!』
『全員で―――――怖くねぇ!!』
ふむふむ、木々の騒めきで所々聴こえないが何人で行動するかどうかとかの言い合いをしているのかな。片方は少人数で行動することを望んでいるが、もう片方は固まって行動するべきだという感じなように聞こえる。
それに何かが逃げたかのような声も聞こえたので、恐らく荷馬車か何かを連れていてウマが逃げたのだろう。
しかしそうなると今の状態の彼らの前に姿を現し食料を分けてくれといった所で分けてもらえる可能性は限りなくゼロに近い。さすがに彼らも荷物を失った状態で物乞いに施しをくれるわけもないだろう。
「はぁ、困った。もう少し様子を見るか?」
彼らが食料を積んだ荷馬車を連れ戻すまでもう少し身を隠そうかとも考えたが、最悪の場合馬をあきらめてどこかへ行ってしまう可能性がある。そうなってしまえば食料どころか街への行く当てすらなくなってしまう。
最低でも街の方角だけでも教えてもらわなければならないので、やはり今彼らに接触するしかない。大変な状況だろうけど街への生き方だけでも教えてもらうかと思い再度止めた足を動かす。
すると前方から何かが木々をかき分ける音が聞こえ、次の瞬間茂みからガサガサと何かが勢いよく飛び出してきた。
「うお!?」
「きゃあ!?」
当然ながら瞬時にお互い避けることなどできず、正面からぶつかり合ってしまう。というか相手は相当急いでいたのか前かがみの体制で突っ込んできていたため、見事に俺のみぞおちに頭突きがクリーンヒットしていた。
「げほっ!ごほっ!いってぇぇ!!」
「ご、ごめんなさい・・・っひぃ!?まだほかにもいたの!?」
俺がみぞおちを抑えながら涙目になって立ち上がると、そこにはブロンド髪のポニーテール中学生が怯えた表情でこちらを見ていた。いや中学生かどうかは知らないが、前世だとそれくらいの年齢だと思う少女なのだ。
「おっと、ごめんよお嬢ちゃん」
「い、いやっ近寄らないで」
俺はそんなに怖い顔をしていたのだろうか。目の前でしりもちをついている少女は俺の顔を見るなり目に見えて顔色を変える。
これはまずい、確実にこの娘はこの先にいる団体さんの子供。もし泣かれたり助けを呼ぶことなんてされてしまえば町の場所すらも教えてもらえなくなる可能性がある。
「お、お嬢ちゃん?泣かないでくれよ?おじさん悪いおじさんじゃないからね?」
まだ二十代なのでおじさんという年でもないが、なんとか目の前の少女を落ち着かせようと精一杯優しい顔、優しい声を作って声をかけ手を伸ばす。
それでも少女はなかなか恐怖が滲んだ顔をやめてくれなかったが、こっちを警戒しつつもゆっくりと手を取り立ち上がる。
「も、もも目的はなんですの」
目的?
少女は立ち上がり、高そうなドレスの土を払うと震えた声で質問してきた。なんて偉い子なんだ。自分もすごく怖い状況なのにもかかわらず、先にこちらの事を気にかけてくれるなんて、よくできた子だ。ご両親の育て方がいいんだろうな。
「そうだな、君の来た場所に案内してほしいな」
「・・・・わかりましたわ」
少女は少し間を開けた後にこちらの提案を了承してくれた。そのときの彼女の表情は何かを諦めているようにも見えたが多分気のせいだろう。
とにかくこれで安心して街の場所を聞ける。いくら取り込み中だといっても子供のいう事には耳を貸してくれるだろう。
「ほんと、馬鹿ばっかり。みんな死んでしまえばいいのにっ」
何やら前を歩く少女から不穏な声が聞こえたような気がするが、俺の選択はこれで会っていたのだろうかと少し不安に襲われるのだった。
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