第9話
「うげぇ、すんごい不味い」
エネルギー不足で眠るように気絶した後、三日目の朝を迎えていた。つまるところ丸一日眠っていたわけだが、前世でも徹夜した後とかはこんな感じになっていたので慣れたものだ。逆にこの状況でも眠れたことに安心しているくらいである。
勿論ほとんどずっと同じ体勢で過ごしていたために、身体中が凝り固まってしまっておきた直後はまともに動けなかったが、少しすればよろよろと起き上がることができた。
それで体も大方治って動けるくらいには回復していたので、現在食料調達へと赴いているのだが困ったことに思った以上に食えるものが少ない。
明らかに毒がありそうなカラフルなキノコに馬鹿みたいに固い木の実、美味そうな果実はあるもののキノコや木の実程辺り一帯にあるわけではない上に、そのほとんどの木に先客がいるから手が出せない。
「くっそぉあの化け物共め」
何とか先客がいない木の果実にありつけても先客がいない、つまり人気が無いようで味も酷いものだった。空腹の状態ですら不味いと感じてしまうから本当にまずいんだろうなと思いつつも空腹さえ満たせれば今は何でもいいととりあえず腹に詰める。
「あぁ~もっと濃いものが食べてぇよ」
それもそうだろう。数日前までインスタントラーメンのような現代的な濃い味の物ばかり食べていたのだ、仕方ないとはいえそんな食文化から急に自給自足をさせられては故郷の味が恋しくなるものだ。
「街に行けばうまいものが食えるといいんだがな・・・」
そのためにはお金が必要なのだが、正直転生してまで社畜として働きたくもない。まぁお金のためなら普通にアルバイトでも何でもするつもりなんだが、よそ者のそれも盗賊の身分の俺が働けるのかどうかすら怪しい。
やはりこういう展開の場合は冒険者とかそういうタイプの仕事を探すしかないのかもしれない。
「いゃあああああ!」
これから先の事を考えているうちにどうやら人のいる場所へとたどり着いていたようで、まだ少し距離があるが前方の方から人の声のようなものが聞こえてくるのを耳にする。
これは願ってもないチャンス、場合によっては食料を分けてもらえるかもしれないし、少なくとも街への生き方を教えてもらえるかもしれない。俺は逸る気持ちを抑えて声の聴こえた方へと足を運ぶ。
先ほど声のした方に近づくにつれて段々とはっきりと声が聞こえてくる。女が何人かと男も数人いるみたいだが団体となるとさらに食料への期待が膨らむ。こんな森の中を楽しそうにはしゃいでいるくらいだ、きっと十分な量の用意があるはず、分けてくれるかはわからないが何にせよ助けてはもらえそうだ。
「いや待てよ、俺は紙に盗賊として生まれ変わらされた。つまりそういう事をしろという事なのか?!」
いやいや馬鹿な考えはよそう、何も盗賊に転生したからって本物の盗賊になる必要なんて・・・・〚グギュルルルルル〛いや場合によっては盗賊として食料を奪おう。
ここはそういう世界だ、化け物はいるし食い物も飲み物も自分で手に入れなければいけない。たった数日だがこの世界は現代の海山以上にやるかやられるかの場所だという事を実感していた。
「ちょっとでも分けてもらえたらその必要は無くなるんだがなぁ」
どうしようかと葛藤しながらもひとまず見てからにしようと再び声のする方へと歩みを再開した。
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