第8話
カニなのかカマキリなのかわからないモンスターとの死闘を乗り越え、辺りは本格的に夜を迎える。さすがに真っ暗な森の中を当ても無く彷徨うのは自殺行為。その上こんなモンスターまで徘徊しているとなれば、なおさら動かず息をひそめるのが得策だろう。
「ひとまずさっきの洞穴に戻るか」
そうひとり呟くとカニカマキリから逃げているときに見つけた洞穴へと歩を進める。
――――――――――――――
「ぎゃあああああああああ!!」
視界のほとんどきかない真っ暗な洞穴の中を男の悲鳴が反響する。その男の正体はナイフ・ぺ・ロー、そう俺だ。
この男なぜ突然こんなに叫び声をあげているか、それは洞穴に入って少しした後唐突に全身を激しい痛みが襲ってきたからだった。いったいなんで急にこんな痛みを感じるのか、軽くパニックを起こすがすぐに原因がわかる。
「・・・傷口が開いてきてないか!?」
どうやら先の戦闘で負った傷が再び痛み始めているようだ。理由は恩恵の効果が切れ始めていることにあるのだろう。
曖昧な記憶だが、たしか恩恵について記述している欄に効果は一時的だとも書いてあった気がする。おそらくその一時的であった身体強化の効力が失われ始めたことで、無理やりに抑え込んでいた痛みを段々と知覚し始めてしまったのだ。
「あ”ぁ!いてぇ…いてぇよぉ!」
何が最強の能力だ、何がこの先楽しみだ。モンスターを一匹倒して浮かれていた数十分前の自分をぶんなぐってやりたい。
こんなのただ全身麻酔しながら戦えるだけの能力じゃねぇか。勿論人並外れた身体能力は魅力的ではあるが、能力を使うたびにこんな痛みを負う可能性があってはおいそれと使うのも憚られる。
ひとまずこれ以上身体は動かせそうにもないし今日はこのまま眠ることにする。まぁ地面に接しているだけでも痛みを感じるので、まともに眠れるとは思えないが仕方がない。
「明日には動けるまで回復すればいいんだがなぁ」
――――――――――翌日
「あっかん、体が動きませんわ」
痛みに耐えながらも目を閉じることでどうにか一時的に寝ることができた。しかし寝て起きてみても所詮現代っ子の肉体、一日二日では治るほど甘くはないようだ。それどころか昨日はなかった筋肉痛のようなものまで感じ、様態が悪化している気すらしてくる。
「腹減った、心の底から腹減った」
昨日から何も食ってない上に想定外の運動の連続、慣れない土地での精神的ストレス、挙句の果てにはこの大怪我。正直空腹が限界突破してお腹と背中がくっつきそうだ。
それにしてもなんだかこっちの世界に転生させられてからずっと死にかけてるな、俺。いやていうか死んでない俺すごくないか、たった一日で何回も死んでもおかしくない状況に直面しているのに生きている。
これが異世界補正というやつなのだろうか、謎のタフネスを見せる自分に疑問が湧いてくるが異世界だからってことにしておこう。
「あっやば、どうでもいいこと考えてたら急に眠気が…」
どうやら活動するにはエネルギーが足りなすぎるようだ。自然とわずかに残った体力をセーブしようと脳が意識を停止させようとしてくる。まぁこんな状態じゃできる事もないし素直に動けるようになるまで寝て過ごすことにした。
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