第6話
『ギャガギャイ!』
聞いたことのない鳴き声と共に姿を現したのは体長1,5mほどもあるカニカマキリだった。
一瞬自分の目がおかしくなったのかと思ったが、目の前に現れたそれがその仮定を否定する。目の前に現れた生物はぱっと見ではとてつもなく巨大なカマキリ、しかしよく見てみればその姿の異様さに気が付く。
カマキリ特有の二対の鎌はカニのはさみのような形をしており、口と思われる場所からはブクブクと泡があふれ出てきていたのだ。
「oh my・・・マジもんの化け物がでてくるのかよ」
足が竦むとはこういうことを言うのだろうか。あまりもの恐怖に声を上げることも、逃げることもできそうにない。今できるのはただただ木々の間から体を覗かせた化け物と視線を交わらせることだけ・・・
『ギャギャギャー!!』
少しの間にらみ合いを続けていたが、カニカマキリは一層大きな声を上げるととうとうこちらへと大きなハサミを振り上げ襲い掛かってきた。
「バっ!?」
これは百死んだと思いつつも、カニカマキリの動きは思っていたよりかは鈍重でハサミを振り上げたのに気付き、すぐさま横に転がることでギリギリよけれることができたのだ。
「マジで死ぬマジで死ぬマジで死ぬッ!!?」
激しくなる鼓動、胸に手を当てながら咄嗟に身体動いて本当によかったと本気で思う。頑張ったぞ俺の身体と褒めてやりたい。
しかし安心するにはまだ早い、たった一度攻撃を避けただけで根本的な解決にはなってなく、未だにカニカマキリはこちらに顔を向け、しっかり俺を獲物としてロックオンしているからだ。
『ギャギ?』
何にせよこんなナイフ一本で勝てる相手でもないだろうし、足が動くようになった以上こんな奴と対面する必要もない。
というわけでこんな化け物とはさっさとお別れだ。右手に持っていたナイフを腰のナイフホルダーにしまい、同じく腰に掛けていた革袋からこれまでの道中拾っていたキノコや木の実を取り出す。
「ほら化け物、美味しい食べ物だぞっと!」
最悪非常食にしようと思っていた物だったが背に腹は代えられない。取りだした木の実やキノコを思いっきりカニカマキリの方向へと投げた。
すると想定通りカニカマキリは突然飛んできたそれらに視線を移し、そのまま口を大きく開く。
「今しかない」
俺から視線がそれたそのほんの少しのすきをついて全速力で駆け出す。勿論すぐに相手も逃げ出す俺に気が付き怒りの声を上げるが、こっちも生きるために全力なのだ。一度も振り返らずただただ茂みの中をかき分け走る。
どのくらい走っただろうか。
途中で何度も足を引っかけ転げそうにもなったが、何とか踏ん張り走り続けた。しかし後ろから聞こえる奇怪な声は鳴りやまず、依然としてあのカニカマキリが後を追ってきているのが分かる。
「くっそぅ、しつこい野郎だな!」
こちとら運動不足の現代っ子、もう既に足も体力も限界だ。何とか身を隠せる場所が無いかと必死に辺りを見渡し走る。
そうこうしていると示し合わせたかのように、人一人くらいなら隠れられそうな縦長の洞穴を視界の端で見つけたのだ。
「おっほ!神よぉ!」
いやあの神に感謝するのはなんだか癪だが、今はそれでも仕方がない。
少し幅が狭いが俺一人が入るくらいなら十分に空きがある。咄嗟にその洞穴に入り込み奥で体を丸めて奴が過ぎ去っていくのを息を殺して待った。
あれから何分経っただろうか、周囲からあの嫌な鳴き声は聞こえなくなり、木々をかき分けるような音も聞こえなくなる。こうしてようやく周囲と俺の心に静寂が訪れ、ほっとした気持ちで洞穴から体を出す。
「・・・・・・今日はよく会いますね」
『ギャガギャイ!』
やっぱりあの神に感謝なんかするんじゃなかったぜ。
洞穴を出てすぐの木の陰に音を消してじっと待っているカニカマキリの姿があったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます