第5話

 転生場所であった少し開けた場所から、目的地であるパドゥドゥと呼ばれる街を目指して歩くこと既に数時間は経っただろうか。

 歩けども歩けども見える景色は変わらず、聞いたこともない薄気味の悪い何かの鳴き声ばかりが木々の間をこだまする。


「・・・腹、減ったなぁ」


 遭難した場合は無暗に動かず救助を待て。


 そんな前世のあやふやな記憶の知識が頭の中をよぎるが、知らない土地で助けが来る保証もない中で動かない方が今の場合は絶対よくないと考えた俺は、ひたすら歩みを進めていたのだが動き続けで腹は減るし、喉もすっかりカラカラだ。


 その上見えてくる景色は一辺倒で、一向に目的地に着く気配すらない。というかこの気味の悪い森から出れる気すらしてこなくなってきている。

 この世界の時代背景というものがわからない以上、ここが未開拓の可能性すらあり人に出会う可能性というのも絶望的だ。


「くっそ、あの自称神の女滅茶苦茶なことしやがって、これなら警察にお世話になった方が幾らかましだっただろ・・・」


 ―――――――――――――――


 ぶつくさと言いながらも休憩しつつさらに歩き続けたが、やはりというかなんというか景色は変わらず木々だらけ、一生同じ場所をグルグル回っているんじゃないかという錯覚に陥り始める。


 どれだけ広大な山や森でもこれだけ歩き続ければ、人が使っている林道や川の一つ見えてきてもいい気がするがそれすらもないのだ。


 木々の間から差し込んでいた日差しも段々と影を落とし始め、あたりは既にかなり暗くなり始めていた。そのことも併せてもう俺の心がべきべきと嫌な音を立て始めていくのを感じる。


「だぁぁぁ!!もうやだぁぁぁぁ!!」


 こんな世界に放り込まれなければ絶対に上げないような魂の叫びを上げる。

 しかしそれはことこの世界においては軽率だった。ローの叫びに呼応するかのように周囲から木々をかき分けるような音とギャイギャイという奇怪な鳴き声が聞こえだしたのだ。


「おいおいおい!?一体なんだってんだ!?」


 熊が出るか猿が出るか、それともそれ以上の何かが出てくるのか・・・


 心臓が嫌に早鐘を打ち全身から嫌な汗が滝のように流れる。勝手の知らない、それも深い森の中、おっかなびっくりな生物が出てきても何も不思議ではない。

 逸る気持ちを何とか押し込めてじっと周囲に目を配るが、一帯は木々に覆われてあまり視界がいいとは言えない。野生の動物の身体能力は舐めてはいけない、急に飛び出してこられては反応する暇さえなく簡単に命を持っていかれるだろう。


「へ、へへッ気のせいだったりしないかなぁ?」


 あまりの恐怖に幻聴の線を疑うが、先ほどよりも近くでまたしてもガサガサと何かが動く音が聞こえてすぐに体を強張らせる。

 自称神からもらったナイフ程度じゃ正直身を守るには心もとないし、恩恵とやらも意味が解らなかった以上何の恩恵にもならない。しかし無情にも、動く何かは着実に近づいてきている。


「か、かかってこいやぁ!!」


 せめてもの抵抗として大きな声を出して威嚇するが、情けないことに声が震えてしまって対して大きな声は出せなかった。

 これはもうこのナイフで身体を一突きでもして、ビックリして逃げ出す可能性に欠けるしかない。そんなことを脳内シュミレーションしているとついに物音の主がその姿を現した。


『ギャガギャイ!』

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