第3話

 ここは、どこだ・・・

 私は、誰だ・・・

 私が一体何をしたというんだ・・・

 誰が転生してくれと頼んだ・・・

 私は私がした行動を憎む・・・!


 だからこれは怒りでも憎しみでもなく、罪を犯した私への


 ””後悔だ!””


「って現実逃避している場合じゃないな、こりゃ」


 目を覚ましたらそこは光さえも通さない、わけでもないくらいに適度に日の光が入る見知らぬ森の中。いや、もしかすると山の中なのかもしれない。

 周囲からはカサカサと草木が揺れる音が耳に心地よく聴こえ、ありえない状況に立たされているはずなのに不思議と不安や焦燥感はあまり感じていない。


「それにしてもここは一体どこだ?」


 変な空間で変な女に捕まったのまでは覚えているが、そのあと結局気を失ってしまってどうなったかまでは覚えていなかった。


 あっ金だ。つい魔が差して拾った財布から金を抜いてしまったが故にこんな状況になってるんだった。

 あの女も罰がどうとかこうとか言ってたし、つまりここは・・・いややっぱりここどこだ?

 警察署っていう雰囲気でもないし、何より近くから人の気配すらしないのが妙だ。もしかするとどこぞの樹海の奥深くに置いて行かれたとかそういうパターンかもしれない。


「・・・・・・・どうしよ」


 うわぁぁぁぁん!

『財布からお札を二枚抜いただけなのに、俺の罰が重すぎる件』


 いや盗みは立派な犯罪か。妥当なのかもしれん。


 それにしても本当にここが樹海だとするならばいよいよ冗談抜きで命が危ないと、脳内で段々と危険信号を送り出し始めている。きっともう少し時間がたてば無事パニックに陥るだろう。


「とりあえず一旦叫んで感情を吐き出すか」


 パニックになりそうな時ほど一度冷静にならなければならない。というのを以前テレビで見た気がするので、息を思い切り吸い込み腹から声を出すことにした。


 せーのっ


「助けてええええええええ!!」


 うん、我ながらこうよく大声で口にできたものだ。などと感心しているとどこからともなく声が聞こえてきた。


『あーあー、盗人君聴こえますか~?まぁ聞こえてなくてもいっか伝えたっていう事実さえあればいいし~』


「聞こえてるよ、ていうか適当だなこら」


 聴こえてきた声に思わず反応してしまったが、いったいどこから誰が話しかけているのかさっぱりわからない。あと盗人言うな。


『聞こえてるならいいや、今から端的にあなたの現状について伝えるからよく聞いてくださいね』


 どうやらこの状況について説明をしてくれるらしい。こりゃ願ってもないありがたい話が降ってきたものだ。


『1つ、あなたは盗賊として転生しました。年齢や記憶は引き継いであるので赤ちゃんからではないので悪しからず』


 ふむふむ、盗賊に転生したね。異世界転生だね。


『2つ、今あなたの居る場所は魔獣の大森林、まぁ有体に言うと危険地帯ですね』


 なるほど、デンジャラスな場所に置かれていると。


『3つ、適当に私の…女神の恩恵を与えておきました。あっ盗賊っぽい恩恵にはしておいたので安心してください』


 はいはい、適当に盗賊っぽい恩恵を与えられましたね。


『後はポケットに詳細の書いた紙を入れておきましたのでご自分で確認してくださいね~』


 後はポケットに説明書が~ってふざけやがってぇ!!

 何もかもふわっとしてんじゃねえか!わかるようでわからん説明ばっかりしやがりやがって、一言文句言ってやるか。


「おいこら自称神様、流石に適当すぎやしませんかねぇ?」


『・・・・・・・』


「ってもういねぇじゃねえか!」


 返事がないってことはおそらくもう伝えることを伝えたからとこちらの言葉が届かないようになってしまっているんだろう。


 あぁもういいや、なんかどっとつかれた。後はポケットに詳細の書いた紙を入れてるだの言ってたし確認するか。

 そう思ってポケットに手を入れごそごそと探り、指先に当たった紙を取り出してさらに呆れる事となった。


「くっそ、どこまでもコケにしやがってぇ」

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