ハル・ナツ・アキ・フユ

euReka

ハル・ナツ・アキ・フユ

 ハルは猫の名前で、いま蝶と遊んでいます。

 この家にハルがいつやってきたのか、私は覚えていません。

 ずっと前からいたような、今初めて見たような……。

「それにハルって名前、誰がつけたんだっけ?」

 そう話す女性は、私の妹で、この家に一緒に住んでいるのですが、自分に妹がいた記憶が私にはありません。

「ハルって名前は自分でつけたよ」

 声のするほうを向くと、猫のハルが、頭に蝶をのせながら喋っています。

「ハルは春に生まれたからハル。猫はみんな自分で名前をつけるよ」

「へえ、ハルはお喋りができたのね」と妹。「何となくそんな気はしてたけど……」

 そこで会話が途切れると、ハルの頭にのっていた蝶がどこかへ飛んでいきました。

「そういえば妹のあたしは、お昼に食べる素麺ができたから、兄のあなたを呼びにきたんだったわ」

 素麺を食べるということは、いまは夏なのかもしれません。

「あたしは秋に生まれたからアキで、冬に生まれた兄のあなたはフユで、今日はナツが家に帰って来るから夏の素麺にしたの」


 お昼の素麺を食べようとテーブルについたら、いきなりドーンと破壊音がして目の前が真っ暗になりました。

 目を開けて辺りを見ると、家の半分が壊れていて、妹が血を流しながら倒れていました。

「アキ姉さん、ごめんなさい。上手く着地できなくて」

 そう声のするほうを向くと、巨大なトカゲのような生物が私たちを見下ろしていました。

「ハルも、フユ兄さんも元気そうね」

 妹はウーンと唸りながら起き上がり、壊れた冷蔵庫の中から素麺と麺つゆを取り出して、巨大な生物の前に置きました。

「これから兄さんと素麺を食べるところだったから、丁度よかったわ」

 会話から察するに、この巨大生物がナツで、私とアキの妹のようです。

「ナツは、季節の夏じゃなくて、ドーナツのナツなのに、アキ姉さんはいつも素麺を用意してくれる」

「ドーナツも素麺も、同じ小麦粉で出来ているからいいじゃない。あなたのアキ姉さんは、ナツが帰ってきてくれたことが一番うれしいの」

 猫のハルは、いつのまにか巨大生物のナツの頭までよじ登って、何事もなかったように毛づくろいをしています。

「そういえばナツは、体を小さくできるんだった」

 そう巨大生物のナツが言うと、体がするすると縮んで、小さな女の子になりました。

「ここに来るまでいろんな敵と戦わなきゃならなかったから、自分が女の子だってこと、すっかり忘れてたわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハル・ナツ・アキ・フユ euReka @akerue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ