あの人ーZERO

奈那美

あの人ーZERO

 10年前のあの日から、ずっと釘づけになっている。

目も、心も。

 

 あの人と出会うまでは、ずっと放置されていた。

幾人もの人が、目の前を通り過ぎていった。

その誰もが、一瞥すら与えてくれなかった。

 

要らないやつ

必要ないやつ

存在しなくていいやつ

 

 そんな評価しか与えられなかったのに、あの人だけはちゃんと存在を認めてくれた。

 

 あの人は、ポカポカと気候がよくなり出した10年前のある日、突然現れた。

それから、毎週来てくれるようになった。

優しく、全身をなでてくれた。

愛おしそうな眼差しを、くれた。

そんなあの人だから、恋をした。

 

 けれど、会えるのは週に1度だけ。

それも、こっちから会いに行くことは叶わない。

あの人が来てくれるのを、ただ待つだけ。

 

 週に1度すら、会えない時期もある。蒸し蒸しと不快な時期の6週間と、切られそうに冷たい時期の3週間。

その期間は、寂しくてたまらない。

今年も、その2回の試練を乗り越えることができた。

そろそろ、1年に一度のあの時期が来る。

週に一度しか会えないあの人に、1週間続けて会えるんだ。

今年こそ、この想いを伝えられるなら、どんなにいいか。

 

 

 

『では、校長先生。今年の蔵書点検は、この1週間でお願いします』

「はい。お願いしますね。司書の先生には、お世話になりっぱなしです」



 

 

 

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あの人ーZERO 奈那美 @mike7691

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