第28話 櫻とマスターと…
「いや。以外と今の自分になるために、大きな代償、払ったんだなって思ってねー」
「そりゃあ、救われる話だ」
――――昔、あるエイリアンがたくさんの人を攻撃していてな。
そいつが最後に逃げていた潜伏先の近くで、ある少年の、人格をコピーしていた
――――潜伏先?
そこで聞いたのは、少し前に通っていた喫茶店の名前。
――――そのエイリアンは感受性が欠如してるからな。
人間となんらかの形で関わって、情報を抜き取るんだが、そういうときに、飲み屋だとか、喫茶店だとかを利用する。
不特定の他人が集まる場所にこっそり混ざって、学んでいる。
――――確かに、変だなとは思ったんですよね。先に来てて、俺が好きな料理とかしか頼まないし、俺が興味ある本とかすぐに似たようなの見始めるし
――――それは、お前のデータをコピーしてたところだったんだろうな、そして、その人格をインプットした上で、あいつを……
昼間。
先生が、学校に何か報告している間、俺は駐車場にある先生の車で眠っていた。
本当はこんな青空の下、お外で、草原とかで眠れたら素晴らしいんだけどな、と思うけど、目だってもしょうがない。
まだお花畑のままの頭じゃ、注目の的だろう。
しばらく寝ていると、コンコン、とフロントガラスが叩かれる。
寝ぼけたまま起き上がるといつの間にか先生が運転席に居て、シートベルトをかけようとしていた。
そして、そのすぐ脇に、ミャンが居る。どうやら彼が声をかけたらしい。
「あ。おはよう、ございます」
ミャンは、一瞬目を丸くしたが、俺だとわかると、ニヤッと笑った。
「おぉ、エイリアン仲間が増えたな」
「みたい、ですね……」
あははは、と苦笑いする。不思議とこの人を見ていると、まぁこういうこともあるかなぁという気分になってくる。それと、先生。
二人も先輩(?)が居るのだ。完全に孤独と言うことも無い。
「俺が貸してやった銃、どうだ?」
ミャンが言うなり、先生が情けない声を上げる。
「こういう便利な物があるなら、どうして教えてくれなかったんだ!?」
「ハァっ!? あんたが、教師になんかなるからだろぉ!?」
それはもっともだ。
「だから、俺とまた、エイリアン撃ったりしようぜって言ってるのに」
「……それは……」
先生が言い淀む。それから言う。
「砂季が、学校や地域で狙われた。こういう時に、エイリアンの側として立つだけじゃなく人間の側としてもフォローがあるほうが良いと思う。
その……うまく、言えないけど、
俺たちが『奴』を倒すのに、ただ暴力だけじゃない表の世界の知識もあった方が、役に立つような、気がするんだ」
ミャンは、驚いたように数秒、瞬きしてため息を吐く。
「はぁー。あんたがそういうやつなのは、昔からだからな……まぁ、いいさ。
それでも、ちゃんと『約束』、覚えててくれたみたいだし」
「覚えてるよ、たとえ教師になっても忘れたりなんかするもんか」
「それなら、良いんだ。てっきりもう平和ボケしちまったんだと思っていたけど、そういうわけでも無さそうだしな」
開けられたサイドガラスの隙間から、ミャンが何か小封筒を向ける。
「頼まれたもの」
「あぁ」
先生が静かに受け取り、座席に置く。
「中身を開ける間でもなく言っておくけど、やっぱりあのパパは随分前からミナポンになってしまっていたようだぜ。ママも、食われそうになったことが離婚の原因だ。そこから矛先が、冬至に変わったんだな」
「そうか……」
先生は、なにやら複雑そうな、悲しそうな目をしていた。
「俺はさ、今でも『奴』を倒すことばかり考えてる。良い人になろうとかそういうんじゃないんだよ。身内すら『あいつら』に食われていくんだから、俺が因縁から逃れられるわけがない。
でも、ヒトとすら見なされないでただ兵器として呼び出される、あの場所に戻るのが、そのときの記憶と一緒に背負わなきゃいけないものが嫌だったんだ」
座席に置かれた封筒にはあのセンターの名前が印字されている。
きっと中には、血液検査とかDNA とかRNAとかの照合結果が入っているのだろう。
冬至……
ミナポンが居なくなっても、冬至の心は変わっていく。
俺自身も変わってしまった。それこそ、血液検査のデータが出てしまった。
どうしようもないけれど、
「あんたは、これからどうする?」
ミャンは、続いてこちらを向いた。ニヤリと笑う。
俺の答えは決まっていた。
「俺も、行きたいです。もっと、エイリアンと関わるところに」
「へぇ、自分で、危ないところに行くのか?」
既に、普通に暮らしているだけでそこそこ危ないので、どうしようもないのだけど。
「どうせ、怪物扱いされるなら、いっそもっと、皆が恐れるくらいになって、それで、いつか、父さんに……別に会いたくないけど会いたい」
とおいが、掌の上で「ワン!」と鳴いた。起きてたのか。
「父さんって、まさか、『あの方』なのか?」
「さぁね。俺にも分からない。だから、確かめてみたいんだ」
それより、目下の問題は、頭がまだお花畑ってこと。
あと、しばらくの間は、櫻たちが表に出て来なくなったとは言っても問題が解決しているわけじゃないし……
「これからは、必殺技も考えないと!」
――――そのときだった。
カーラジオからまるで俺たちのこれまでの内容を被せるかのように、
要人が暗殺されるニュースが流れる。
「え……」
襲われそうになって、工作に巻き込まれている中だっただけで、
悪いことをしていたわけじゃないのに、変な気持ちになる。
その場に奇妙な沈黙が生まれる。
『自作の銃を持ち、走り出した男による犯行――――』
『広場の中心でドロドロと溶けていく人々が、映されて居ます』
音声ではわからない、と、鞄にあった携帯電話を付けて動画を検索する。
ミャンと似たような、いや、それより手作り感のある銃を構えて、町のトップの背中を吹っ飛ばしていた。
「あれは、エイリアン用なのに。その場に居る人間がなぜ溶けて……?
まさか、この町のトップも既に……」
ミャンが驚いた声を上げる。
同じ銃かはわからないが、既にミナポンに成り代わっているというのは考えられた。エイリアンが地球を侵略するにも、まずはトップを制圧する方が早いだろう。
「広報も、だろうな。俺たちのことも、いつかどこかで悪く書かれるかもしれない。傍から見れば、だれが成り代わってるかなんてすぐにはわからない。」
映されているものだけが全ての真実じゃない。
だけど、広報もエイリアンの味方だったら、俺たちを引用するだけだったなら、それは、彼らが成り代わりたい誰かの下準備。
『いつもの』工作に、使われたということなのだろう。
地球は既に狙われていて、
町が、暗躍する何かによって、少しずつ動いていく――――
自分が奪われそうになっているもの、冬至を奪ったもの。
他人事じゃなく、すごく身近な話。
櫻たちは、いつもどこかでこっちを見ていて、成り代われそうな人物を狙っているのだ。
2022年7月9日23時37分
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