第8話 せんせえの過去と、不思議なグミ



そして2限終わりの休み時間。浜梨に呼ばれた進路相談室にて会議が行われた。



「先生……俺生きてく自信ないです」


「すまん、もっと早く捕獲出来ればよかったんだが。

あのエイリアンは人になりすます精度が高くてな……」


机にうつ伏せる俺と、項垂れる浜梨。

彼は副担、今は担任受け持ちだからいいとして。

大田原先生は数学(ハイレベル)クラスを受け持つとわかった。ちなみに俺は普通のクラス。

数学だけは、嫌いだ。

まだ科学のがいい。

理科だけほしい……


理数、という分け方がなくなれば、成績が上がる人が出るんじゃないだろうか。


「となると主な接触機会は、登下校、放課後、昼休みか……」



 先生は目の前で真面目な顔をしている。俺は、櫻を倒せるんだろうか。


「なんか話的に数年後に再会パターンかと思ってたのに、

用意周到だね、下見ってか、もろにスパイに来てるじゃん……これ変身どころじゃなくない?」


「それも、すまん。せめて隣の家に引っ越してくる、程度と侮っていた」


距離が近すぎて、『俺が』変身したところで櫻が正体を知ってれば意味がない。


「先生さ、学校組織のこと知れる立ち位置だし? 学校って内向的だからさー、封鎖的だからさー」

「あぁ。スパイが紛れるはずないって思ってたんすね、でいざとなれば動向を知れると」

「そうなんだよ、たぶん、前入院した担任」


なるほど。担任か。

確かに浜梨は担任が謎の入院をしたとかで担任になってるのだ。

「で、ついでにだ」


と彼は何やら紙を渡してきた。

「きみが休んだ間みんながもらった、コレ」


中身は少し前学校でやらされた学力試験の結果だった。

センター風にマークシートで解かせるやつなのだがマークシートが嫌いだし、高校入試みたいに書き取りじゃないと自信がない。あまり結果を見たくないな……と目を逸らすと先生はにっこり笑った。


「目を逸らすな、現実を受け入れろっ、俺も暇じゃないんだ、一応先生なんだからな、仕事はする」


なんだろう、なんだか屈辱的な気分になるぞ。

恐る恐る中を開……あまり直視せず閉じる。見たときの顔で結果についての心情を見破られたくなかった。


「数学の先生が、嘆いておられた」


俺に構わず先生が言葉を重ねてくる。

まあ……だろうな。他はおおよそAだし。


「数学のグラフだけこの異様な下り坂、もうちょっとなんとかならないかなー? と」


たぶん、ならない。

「ですね」


「この下り坂、これだけで100点近く変わることもある、少し出来るだけで未来の選択にかなり幅が出来るんだがなぁ」


「……すいません」


珍しく、教師と生徒らしい会話だった。


「なんていうか、言いたくないんだが――学習障害とか、疑った方がいいんじゃないか、レベルだぞ」


「………………」


「いや、まあ、いい。人間、得手不得手があるからな。


偏りがあるだけでも随分と動いてしまうそういう、不平等な画一さが、現代教育の問題でもあるわけで」


「はぁ」

世界は不平等だが、それも世界だと思ったりもする。

ただ、努力がどうにかするものもあれば、どうしようもないものもあるわけで……先生の期待に応える自信は俺にはないので、ただ心苦しいのだった。








放課後、俺は再び進路指導室に呼び出された。

ちなみにその日、大田原先生とはまったく会わず、このまますれ違えば順調って具合だった。

「なんで、急に、来たんですかね」


「担任は入院だが、数学のハイレベルの先生は産休だ」


「へぇー。知らなかった」


机に向かい合っている浜梨がなにか採点しながら俺に答える。俺は、課題をやっていた。

この状態で、作戦会議。


「だから! マイナスとマイナスはプラスだっつってんの!」


ちらりと課題を見た浜梨がキレてくる。キレなくていいのに。

「えー。なんでマイナスとマイナスはプラスなんすか?」


「まず、ここに、マイナスがあるだろ?」


ノートの端に図を書こうとする先生。


ちなみに1足す1はなぜ2なのか聞いたエジソンさんは、お前は頭が腐っとる! といわれてキレられたらしい。

書かれてるグラフ、縦棒なんだか横棒なんだか、わからない。

「で――こっちに寄っていって……で、合体するんだよ」

「合体って、質量ないじゃないですか。それ何%くらい同化してるんですか? 完全に重なりあった物体が増えるってことですか、そもそも」


エイリアンを見るような目で見られた。

「先生、なんだか泣きそうだよ」


 棒が棒と繋がって、プラスなんて言われても意味不明だ。

 繋がりにもさまざまな形があるし、合体にもさまざまな形がある。どのくらいなのか、どのようになのか? そっちが気になって答えどころじゃない。



 そしてしばらくの沈黙。

先生は湯気が出そうになっていた。

暖めたら気化した水を想像すると、具体的な気持ちになった。1とか2とかふわふわした記号が頭の中で途端に意味を持つ。

「なんとなくわかりましたー」


カリカリ、とノートに続きを描く。


「……俺は、お前が、わからん」

浜梨はなぜかがっくりしていた。

「どうかしましたか?」


「俺と逆」


「はぁ」


「俺は学生の頃英語だけは苦手だったんだよ、ただ、お前の数学よりマシだがな」


「そうなんですか」



でも、嬉しい。

俺みたいに偏った人が居るんだ。

真逆の得手不得手だということはお互いに補って助け合える関係になれるかもしれない。

隣で別々に存在してもらおう。

嬉しいことだった。

張り合わなくて良い、

意識しなくても良い、相手――戦うのは嫌いだから、自分と真逆の相手が、真逆の方向に存在する嬉しさはとても大きい。




 俺は先生のおかげで少し捗った課題に安堵しながら、「で――櫻のことですけど」 と切り出す。

「夜中、またあの辺に出ますかね?」


「どうだろう。家は名簿とか履歴書があるから調べれば行けないこともないが……荷は重いよな。デカい家とか」


自分と、真逆。同じ人は苦手だから嬉しい。

つまり戦わなくて良い。比べられなくて良い。こんなに安心できる人だとは思わなかった。


「なるべくは、前の道を探してみましょう。また誰か引っ掻けてるでしょ」


俺のカオで――――

なんだろう、悲しくなってきた。

「そうだな、まずはそれしかないだろうな」


なんで、俺なんだろう?

しかも、なんで狙いが同性?

ああいう色仕掛け系といえば、子を為すためだったりすると思うのだが。

そういえば、サキュバスとか、インキュバスとかそういうのも居たな。


「その手の生殖は必要なくて、サクラにもある程度の自意識、自由意思があるんじゃないか。好みっていうかな」


サクラの好みかよ……

俺のカオで。この見た目をモデルでの同性ハーレム実現がそんなにやりたいのだろうか。


「俺はああいう、騒がしくて、妬いたり妬かれたりでドロドロしたノリ、どっちかってと苦手なんすけどね」


サクラが暴走することによって実は俺はそういうイタいキャラだという認識が裏界隈に知れわたるのか――?


ぶるぶる震えていると浜梨が慌てたように、『耐えるんだサクラをぶちのめすまでの辛抱だ』と言い聞かせてくる。














 夜、サクラに会いに行くことになってそっと家を出る。

母さんたちには友達と食べてくるとか適当に答えておいた。


「うう、さむっ……」


朝の空気はまだひんやりしている。道の途中に一台の車が止まっていて浜梨が乗っていた。

クラクションを鳴らしたら車を蹴ってやろうかと考えていたが鳴らさなかったようだ。


昔、挨拶がわりに気楽に押す先輩が居てかなりイラッとしたものだから、安心したりして。

腕のなかでぶらぶらしてる『とおい』は眠そうだった。

今日の夕方、俺の部屋では、ごめんなさい、申し訳ありません、すみません、について教えていた。

気付けば夜中になってて夕飯もそこそこに、着替えて出てきた形だ。これから、前にサクラを見たネオン街みたいなとこに行く。


「つれ回すことになるが、その前に」


と、先生は何か渡してきた。グミみたいな、四角いかたまり。

「これを噛みながらなりたい自分を想像するんだ」



「……はぁ」


地味だな。もっと、ビームとかなんとかが待ってるのかと思っていた。

口に放り込むと、ずきん、と頭の中身が振動するみたいな変な頭痛が起きる。


「ぐ……ぅ、う」


痛い、というか、違和感というか。

まるで見えない磁石に頭のなかが引っ張られるみたいだ。

経験したことのない頭痛。

頭をおさえる。


「これなにあじ?」

「こんぶうめ味」

和風テイスト。

なりたい自分、なりたい自分?というか、別の自分……

別の、自分。

だんだん船酔いみたいになってくる。

「吐き出して良い?」



「だめだ、途中で吐くと、たまに戻れなくなる」

なんてシロモノなんだ……

「問題を出してやろう、352-34は」


「えぇー、300-30が

270、で、50を足して320で、あと2だから、318?」

「やっぱりそうか」


ぐみをもぐもぐし続けるうちに目が回り出した俺の横で、浜梨はやたらに真面目な顔をする。

「いや……一部の体質や、変異を持つ人は、複雑に計算をするとか。合体~とかの説明に違和感があるのもたぶんそれなんだろうな」


「複雑?」


「小さな数字のために、あえて大きな数字を足してから計算したりするんだ、自閉的な人とかにたまに見られるようだよ」


俺は、別にそんな診断はされていない。傾向くらいはあるかもしれないが、そこまで複雑だろうか?


「本来必要ないとこで100とか足したりするんじゃないか?」


「普通に、あります、けど。なんで数字の話なんすか。他の話にしましょうよ、ランゲルハンス島でのバカンス一週間が当たった場合の話とかしましょうよ」


こんぶうめあじ。

だいぶ美味しい気がしてきた。

「ドラえもん呼んできてくれ。じゃなくて他だとお前すぐできるだろ? 時間稼げないじゃん」


少しずつ走っていた車が停止する。信号が変わったらしい。

「あぁ、引っ掛かった……」


カチ、カチ、と時を刻む車内で俺のなかのかけらがじわじわと溶けていく。


「ニトロならよかったですね……」

沈黙に耐えられずに呟く。


「俺らの身体がよくないよ、エイリアンじゃないんだから。あと、たぶんこの車も持たないよ」


先生は真面目に答える。

身体が少し光った、気がした。


ふわっ、と身体の中が軽くなるような変な感覚が襲ってきて、俺は椅子に背中を叩きつける。

「ひっ……」


浜梨は信号を見てて俺の変化には気づいてないみたいだ。


別の自分……

別の……



――――っと。

やばい、意識が飛んでた。

ふと目を覚ます。

慌てて手を見たのだが、指に変化はない。


「あれ? 夢オチ?」



車が停止すると、浜梨が歩いて来てドアを開ける。

枕になってるとおいが、潰されかけて「クソが!」 と吠えた。


「あ、悪ぃ、なあ俺変わってるかな?」


聞こうとしてから前についてる鏡を見た。

髪は淡い青と銀の間みたいになり、頭からはふわっと一輪の花が生えている。小さな花もわずかに、髪飾りみたいにいくつか見える気がする。

頭動かすと、ほのかにいいにおい。頭に広がる、お花畑。


「………………反応に困るんだけど」

「ケケケ、脳内お花畑ヤローが。本性表したじゃねぇか。クソがっ!」


とおいが、にんまり笑う。


「お。かわいいなお前」



浜梨が、にやにやしてくる。


「かっ、わ、いいっていうな金輪際言うな!!バカ!」

確かに、こんな可愛らしい格好普段ならばしない……

車から降りる。

前に来た場所に降りたが、なぜか橋はもう元通りになっていた。

 駐車してから、櫻が居た路地に向かって徒歩で進む。


「先生、なんでエイリアンの居る場所をあえて職場に選んだわけ」

話題をふってみる。

彼は穏やかな感じで答えた。



「あぁ、エイリアンは赤ちゃんに寄生することもあってな。


本来生まれるべきだったそいつの代わりに世の中に生まれちまったエイリアンが居るんだが……まあそれが、親戚でな。

エサがないと生きてけないからそいつ、人をどんどん殺してたんだ。

それ知った後も、一族はそいつを庇った。生んだ親ももちろん惨いことはできないと黙認し続ける。

家はどんどん、血が濁っておかしくなっていった。


俺はそれを知ったときに、自分が、あの家を殺さなくちゃいけないと思ってさ♪」


ずいぶん軽く説明されて聞き流しかけたが、結構ヘビィな話だった。


「なる、ほど」


エイリアン一人が狂わせていく家系を誰も止めない、止めたくないとすら、思っているなんて端からみると変な話だった。

見知らぬ人がたくさん死ぬよりも彼らは既にエイリアンが大事なのだ。


「一応、血は、繋がってるからな」






















頭に、お花が生えてしまった 俺と共に浜梨ととおいはネオン街に繰り出すわけなのだが……

「俺、頭に花を生やしたいとは言ってないような」


「ま、まぁ、ほら、それはな、まだ企業の開発段階というやつで改良途中らしい」


エイリアン企業?

いや、確かにこれ、人間が作るアイテムじゃなさそうだけど。というかそんなの食べて平気なのだろうか、って遅いか。


「とにかくこれでお前が砂季だとはクラスメイトも思わんだろう!」

「だといいですけどね」


まぁ、少しメルヘンになったと思えば悪くもない、か?


「先生も、ほら」


と、口を開けた先生の舌がやけにべろろんとのびる仕様になっていた。


「ひっ……!?」


「エイリアンから身体を保護するためにちょっと身体能力を上げたら、舌がこんなんなっちゃった」


「昼メシんときは気を付けてくださいね」



とおいが吠える。


「ク……ッソ……がッ!! ぅわんわん!」


「今か、ビニール持ってねぇぞ」

浜梨が後頭部をかきながら、残念そうにため息を吐く。

と。ネオン街の一角の――この前より入り組んだところにサクラが居た。物陰で、何かに励んでらっしゃるらしい。


だから、中で! やれよ!

公共の場を戯れの場にするな!


看板の裏から営業の様子が足だけ見える……

浜梨が顎に手をやる。


「おかしいな」


「どうかしたんすか」


「いや、確か、職員室できいた話じゃあ校長から気にかけてもらっていて、結婚しているとか付き合うとか――

あいつが、優遇されているのはわかるよ。こんなとこに居る場合じゃないはず」


路地裏にサクラの甲高い悲鳴が響く。相手の男の太い唸り声も響く。


「はぁ、そんな優遇する偉い人のことまで裏切って、あちこちに好きなんて言って。悪女だな……」


「男、オトコ!」


浜梨が横から茶々を入れる。

いや、でも、いたたまれないだろうなぁ。


「あぁ、愛してる……砂季」


サクラに対してお相手がうわごとを呟く。

ぴきっと額に筋が浮かびかけたがかろうじて押さえて見守る。あんたはサクラだろ!


「砂季、うれしぃ」


「俺は本気だぞ」


「俺もっ」


――俺から見てもウンザリする態度だった。

当然その優遇する人と結婚でもして遊びなんかやめないと失礼だと思うんだが。


通う学校の校長が、まさか優遇のための使い捨ての駒にしか思われない関係に、すがって愛を待っているだなんて思うと……なんだか悲しいというか。

情けないというか。


頭のお花畑がふわりと揺れて薫った。リラックスしそうになるがそんな場合じゃない。

面倒ごとは嫌いだった。

俯くとこのまま帰りたくなってしまいそうだ。だけど帰らないように前を見ていた。


「逃げないなんて偉いな」


浜梨が俺に囁きながら問う。


「だって、寄生されるだけでしょどうせ。あいつを殺してから、また静かに暮らしますよ!」


いつもと違う、頭がお花畑だからだろうか。なんだか少し明るい自分になっている気がした。ニコニコ、そう、笑顔。



「今までのやつ、死んだのは不運だが――実はなたまたま死にきれないやつも居たんだよ」


そうなの?


「そのいくらかは逃げた。

重みから目を背けて周りを頼った。誰かになろうとした――

エイリアンとなったんだ。


エイリアンだけの意思じゃない、結局逃げて自分の弱さを認めたから、完全に寄生されて戻れなくなった――


実は……本当は、背を向けたらおしまいだったんだ。

だから半分は本人が選んでしまったんだよ。エイリアンになる道も死も。弱さに飲み込まれた結果でもある」



「もし、そうなったら……」


「他人に成り代わり続けながら、永遠に、死ぬまで俯いて生きるしかないだろうな」


自分が選んでしまうかもしれない道だったからゾッとした。


「今でも、他人に成り代わっては他人のせいにして、周りを恨むことを正しいと考えるしかもう浮かばないような――あのエイリアンに自らなっていったやつが、いっぱいいる」


「気をつけます……」


エイリアンと人間の境目は曖昧みたいだ。そんな惨めになってまで生きたくはないなと、彼の目を見て思った。

せめて俺だけは、寄生されない人間になれるだろうか?

俯かなくていい、背を向けなかったやつはほとんどいなくて、みんな弱かったなんて、ことがあれば、勇者みたいだな。




「わんわん!」


とおいが吠える。

「弱いやつは、いらない」


浜梨が低い声で呟く。


「弱いやつは、すぐに逃げてエイリアンに成り代わり――俺が殺すことになる♪

少なくともとても、エイリアンには見えても恋人にだけはなれないタイプだな♪」


明るい声で呟く。


わんわん!!

とおいが吠えた先にいるサクラは、とおいを追って道に踏み出していた俺に気がついたらしい。

「先生は、そこにいてね」


と俺は叫ぶとおいとともに、サクラのもとに向かう。


「わんわん!!」


とおいの目がサクラと同じ、青く光っている。やはり共鳴している。


「あっ、こんばんは、お客様ぁ? まだ順番待ちなので来たら、だめですよ」


男がアライ息を吐きながら、

「はあっ……、ぱる子……、僕らの運動会……っ、1・2フィニッシュ、決めよう」


俺とは思ってないらしい櫻が、ドアの下の小さなコンクリ階段のところで、少し剥げている男性の上にまたがって言う。


「あん……ぱる子って誰よ、だいすけ!私はっ、砂季って名前があるの!

間違えないでくれる」


 アンタも間違えてるぜ!

あるのはサクラって名前だー!

「あぁ……なんて、借り物競争なの」



 とおいが、こそっと「クソだな!」と呟いた。自分の頭からは、花がふんわかと香ってくる。

気分が安らぐ……

サクラの前に出ていく。

バレぬようにいつものキャラで行くわけにはいかない。


 あのぐみで完全にキャラが変わるくらい変身させられんだと思い込んでいた俺だが……、

見た目は変化してるものの心はというとびっくりなくらいそんなに変わるわけじゃなかったりして。

今も、あまりに冷静だった。


 ほんとに、試作品だからなのか、はたまた、目的を忘れるくらい人格に影響したら取り返しがつかないからなのか?


「きゃはっ、生身の煽り運転めーっけ☆」


ふわふわ~と、身体からお花畑が広がる。


「お、お前は花畑星人……キャラメル・メロン!」


美味しそうな宇宙人キタ。

男が、自分の裸を恥ずかしそうに隠す。

毎度すんません。


「『サクラ』 んなとこで次のコピー相手探しぃ?

俺の目が、サクラが不正してるの捉えちゃっているのだけど」


もうヤケだ!

こんなに可愛らしい(自虐)ならいっそ、今話題の男の娘だ。

だけどサクラと被らないようにーって難しいなおい!


とおいが、ぼそっと「ダミッッ!」と言った。アレンジしたな。



待っててね、と男から離れるとサクラはこちらにひそひそ声で文句を言う。

「うるさいよさっきから、人間をコピー寄生するのは、我々、ナンベイジャガイモッチミナポン=ケロケーロの生きざまなのぉ! その歴史を鑑みないのがわるいのよ」


長い名前キター!


「そ、そーかもしんないけど、」

なんて言おう、やばい、エイリアンの歴史とか知らん。と焦っていると花がふわふわ~と香ってきた。


「う、うわっ、やめて……その香りっ……あぁ……やめて」


サクラが急に鼻と口を覆うようにした。

「どうしたの?」と近づいていくともう片方の手で俺に、びし、と指をさしてきた。


「今日のとこは引き上げるけどっ、覚えてなよ!」


小さな鞄を抱えたサクラが路地裏から通りに向かって勢いよく走っていった。

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