第3話 手作り弁当

時間割や課題の提出方法などが書かれたプリントが、次から次へと配られる。

家から持ってきたクリアファイルはすでにパンパンになった。


キーンコーンカーンコーン


授業終了のチャイムが教室中に響き渡る。


「お昼ごはんだ!」


奈美は心の中で舞い踊った。


めぐみがお弁当を手にしたまま、奈美の席に近ずいてくる。


あ…他の子もいるんだ。


めぐみの隣に、あと2人いることに気が付いた奈美の身体中に緊張が走る。


「奈美、あやかとさくら。4人で食べてもいい?」


あやかとさくらはニコっと奈美に笑いかけた。

断る理由もなく、奈美はもちろん、とすぐに答えた。


「え、奈美のお弁当めっちゃ可愛いんだけど!」


奈美のお弁当を見ためぐみが興奮気味に言った。

あやかとさくらも身を乗り出して、お弁当を覗き込む。


「ありがとう。そんな大したもの入ってないけどね」


遠慮がちに、そして照れくさそうに奈美は答えた。

奈美のお弁当にはクマの形をしたおにぎりと、卵焼き、アスパラのベーコン巻き、肉団子が入っている。

なんとも子供が好みそうなお弁当である。


「これ奈美のお母さんの手作りなの?」


おにぎりを一口、口に入れたさくらが奈美のお弁当を指差しながら聞いてきた。


「ううん、全部自分で作ったの。うち、共働きだから私が家族みんなのお弁当を作る係なんだよね」


奈美はお弁当に目を落としながら、少し小さな声で答えた。


「すっごーい。奈美、料理めっちゃ上手やん!! うちなんか卵焼きでさえ焦がしてしまうし!」


めぐみはそう言うと「まぢで尊敬」と付け足した。


奈美の父は大学の教授をしていて、母は近所のスーパーで朝から夕方まで働いていた。

そのため毎日の食事の準備は、奈美が中学校に上がる時から、奈美の役割となった。

小学生の頃から母の手伝いとして料理をしていた奈美にとって、食事の準備はそれほど苦痛でもなかった。

自分が料理をしたらみんなが喜んでくれる。

それが奈美の大きなモチベーションにもなっていた。


自分が頑張れば、みんなが笑ってくれる。


すでにこの時にはこの思考が奈美の中に生まれていたのであった…



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