無貌の神

あんじ

プロローグ

 あれは雪の降る寒い日の夜だった。


 俺──中村友哉なかむらともやは寒空の下、乗り遅れた電車を目で追いかけながら帰宅の途に着いていた。

 都心に比べて田舎なここでは、電車は1時間に1本。家までは歩いて40分ほど。待ってる時間があれば歩いて帰る方が時間も無駄にならない。


「クッソ、なんでこの時期に受験勉強をしなきゃいけねぇんだよ。俺は推薦組だっての」


 来週に控える高校受験に向け、教師による成績の低いもの達への補講により日が落ちるまで対策を無限にさせられた。自称進学校による試験対策の補講に強制参加させられ、ここ数日補講三昧。さすがに疲れもピークだ。


「あー、寒い。鼻水も凍るわ」


 毎年更新される最低気温により都内でも雪が降る事が増えたと聞く。まぁ、毎年この辺は雪なんてよく降るから関係ない話だが。

 ぼーっと、疲れた頭を休めるように空を眺めながらゆっくりと歩いていく。この時間になると周りに人はいないし、街灯も少ないから星が綺麗に見える。


「流れ星、綺麗だな」


 もちろん隣にも誰もいない、虚しい独り言だ。というか、そもそも今日は流星群だっただろうか?

 スマホで調べてみるが、今日はそういった予報は見受けられない。SNSも確認してみるが、流星群を見たという者もいないし、そんな話すらない。


「というか、多くないか?」


 流星群というのは1時間に1個なんてのもざらじゃない。それが1分で10個くらい降っている。これは異常だ。

 それに、1つおかしなものがある。時間が経つにつれて大きくなってきているし、唸るような音が聞こえ始めている。

 そう流れ星、いや、隕石が落下してきているようだ。それもこの近辺に向かっているように見える。


「隕石か、見てみたいな」


 ふとした気持ちだった。隕石なんて人生でそう簡単に見れるものでは無いし、拾えば高く売れるとも聞く。ごく平凡な高校生な俺にとっては大きなお小遣いとなる。ちょうどスマホも新しくしたかった所だ。

 隕石を追いかけていくこと数分、大きなおと共に近くの山に落ちていくのが見えた。位置的にも家の裏にある小山だろう。

 家を通り過ぎて山へと向かっていくと、途中で煙が上がっている場所が見える。

 そこを目標に走っていく。すると、そこに落ちていたのは隕石ではなくだった。


「……誰か、誰かいるのか?」

「ッ!?」


 声が聞こえた。男なのか、女なのか、若いのか年老いているのか、そんな矛盾を孕むような声だ。でも、どこから聞こえているのかが分からない。暗闇だからという訳ではなく、周りに音が反響するような、直接脳に語りかけているような響き方だろう。


「なんだ!?誰なんだ、どこにいる!?」

「……人間、そうかここは地球か」


 まるで宇宙人のようなもの言いだ。地球以外に生命がいた事もないし、宇宙から地上に落ちてきていても、この惨状ならもう粉々だろう。

 つまり、人ではない何かがいるということだ。普通人間を見ても"人間か"とは言わない。


「あんたはなんだ?隕石なのか?」

「そんな事は後だ。お前、空から何か来てはいないか?」

「空?いや、空はお前が──」


 そう言って見上げた夜空には隕石が3つ、それもこの場所目がけて落ちてきていた。


「ヤバい、3つも!」

「チッ、やはり誤魔化しは効かないか」


 隕石であればどれほど良かっただろうか。勢い良く降ってきたは俺の目の前に落ちてきた。

 落ちてきたのにも関わらず、燃え尽きることはなく燃焼するものも無いのに燃え続ける何か。それが隕石の正体だった。


『──!──!』


 背筋が凍りつく。まさに宇宙人、いや、地球外生命体ってやつだ。人ではない何かを見てしまったからか、思考が停止していく。


「おい、人間動けるか?……いや、仕方ない。宿り木とはいえオレを見ただけでなく、連続してヤツだ。正気を保てと言うのが難しいか」


 炎の何かは揺らめいては、少しずつ前へと進んでくる。それと共に俺の視界も揺らいでいく。

 あぁ、気を失うとはこういう事かと認識する。見えている時間だけじゃなくて、思考の時間までもがゆっくりになっていく。そうして、チクタクと時間を刻む音が聞こえ──


「──時計?」

「そう、時計だ。ようこそ人間、オレの空間へ」

「お前は……」


 目を開ければ、そこはさっきまでいた山ではなくおかしな所へと連れてこられていた。

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