第36話 パウンドとポイズン③
俺はすぐに原課長へ声を掛けてサバイブのメンバーでミーティングを開かせてもらった。
「もうすぐ今日の就業は終わりますけど、どうされましたか津部君?」
「みんな悪い、こんな時間に。
俺は今日、過去の事件を閲覧できる権限を与えてもらって、ある一つの事件を目にした。
それは、『2024年 ジパングエア555便 航空機事故』だ。
この事故に関する全ての記録を見た後、考察してみたんだが、まだ誰も唱えていないある一つの仮説が浮かび上がった。
それは、太陽フレアによる太陽嵐によって電子機器破壊による動力及び通信手段の損失と、謎の気流による長距離グライダー飛行だ!
これによって、捜索範囲は地球全域となる可能性がある」
「私もその事故報告は読みましたが、確かにその説は新しいですね。早速明日からサバイブで検証してみましょう」
「いや。原課長、今すぐの方がいい」
「それはつまり?うそでしょ?うそでしょ?」
「ごくわすかだか可能性としてある。もしそうなら1秒でも早い方がいいだろう?もし、搭乗者が生きている可能性があるとするならば」
口に出してしまった。もう後戻りはできない。もう俺一人の問題ではなくなった。前に進むだけだ。
「俺はここに残って検証を始めるが、みんなは予定があるんなら帰ってくれてかまわ、」
「津部!俺たちは常に優先順位ってものを持っている。それにお前の考察はいつも鋭い。この件は最重要で今すぐに対応すべき最優先事項だ!手伝わせてくれ!」
「そうよ!津部さんの持つ勘ってのは物理的現象や計算によって必ず結果がついてきている。今回もそのわずかな可能性にかけさせてちょうだい。私もやるわ!」
角嶋さん。荒木戸さん。ありがとう。映画を見に行く予定だったのに、俺の思い付きに付き合ってくれて。
「久々の残業ですね。僕は何か力が出る食べ物を調達してきますよ」
「いや、原課長にお願いしたいことがある。俺たち3人はこれからあるプログラムを作り出す。そのプログラムを動かすには、航空会社にある555便と同じ型の飛行訓練用のフライトシミュレーターと、当時のキャプテンと同レベルの操縦士の確保をお願いしたい。
どうだ?できるか?」
「任せてください津部君。必ず用意します」
「津部。フライトシミュレーターを使うってことはまさか、」
「そうだ角嶋さん。これから俺たちで事故の起きたあの日の自然環境を完全再現するプログラムを作り出す。
天候から海流まで全ての環境を再現した中で操縦士にシミュレーション飛行してもらうことで、墜落もしくは不時着した場所が絞れるってわけだ」
「なるほど。ただやみくもに探してたんじゃ地球全域になっちまうからな。で、何から始める?太陽嵐か?謎の気流か?」
「実は両方の再現プログラムは俺がもう作ってある。この前の太陽フレア騒ぎで長いこと休ませてもらっていた時に暇でな。
ただ、計算量が莫大になるから実行はしたことが無いんだ。
後は細かい修正と検証を数時間のうちに荒木戸さんにやってもらいたい」
「わかったわ、津部さん。今すぐにとりかかる。でも、宇宙規模のシミュレーションとなるとスーパーコンピューター富溪の計算能力だけじゃ足りない気がするわ」
「そうなんだ。俺の想定では地球上の気流と海流の計算まではできても、より複雑な宇宙から来る太陽嵐の再現まではどんなに強力なパソコンでも計算が追い付かない」
「じゃあどうすんだ!津部!何か案があるんだろうな!」
「ああ。そこで角嶋さん。あんたに作ってほしいアプリがある。それは、分散コンピューティングアプリだ!
このアプリをインストールしたスマホやパソコンの能力を全てつなげて、一つの巨大仮想スーパーコンピューターを作り出す。
数が多ければ多いほど計算能力が上がり、富渓をも上回るスパコンが出来上がるってわけだ。
地球上に張り巡らせた通信網を利用して作り上げることからこう呼ばせてくれ。
名付けてスパイダーネットスーパーコンピューター。
略して『スパットコン』だ!
どうだ?できるか?」
「誰に物を聞いているんだ?やってやるよ!それで、津部、お前は何をするんだ?」
「俺は、スパコン富渓とスパットコンと航空会社のフライトシミュレーターとを繋げて、すべてがリアルタイムで同時進行できる環境を整える。
それと、角嶋さんに作ってもらうアプリをインストールしてくれる協力者を集める」
「ではみなさん、役割は決まりましたね。サバイブ一世一代の大仕事。全力で行きましょー!」
「「「了解っ!!」」」
原課長がみんなに
荒木戸さんもスパコン富渓を最適なセッティングに整えると言って走って出て行った。頼んだぜ。
角嶋さんがアプリの作成に入った。頼んだぜ。
どんな結果が待ち受けているのか分からない。俺はその結末に耐えられるのか分からない。でも、やるしかない。向き合うことででしか解決できないんだ。
そうだろ?美佳。
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