第34話 パウンドとポイズン①
先生にキスをした翌朝
昨晩俺は、この更生プログラムの残された期間を何事もなく無事に終わらせることを心に誓った。そうすれば、先生が俺の事を男として見て向き合ってくれると言ってくれた。それはつまり、俺は先生と結ばれる可能性があるということだ。
だが、この日の俺は朝から悪い予感がしていた。
絶対に開けてはいけないパンドラの箱を、
絶対に触れてはいけない禁断の果実を、
絶対にあってはならない現実世界のバグというやつを、
そんなものにブチあたる気がしてしかたがなかった。
だから俺は部屋の壁に掛けてあった、先生が結んでくれた思い出のネクタイを、お守り代わりに身に着けて家を出た。
警察総合庁舎
いつもクールな角嶋さんがニコニコしている。
しかも俺に向かって、どうしたか聞いてこいアピールをしている。これはこれで気持ち悪いが聞いた。
「何かいいことでもあったのかよ?」
小声で答えてきた。
「おう。実はな、今日仕事が終わったらメ、荒木戸係長と初めての映画デートなんだ。それが楽しみでな」
しょうもない。ご勝手にしてください。とは言えなかった。
「よ、よかったな」
続いて今日も元気な原課長が、俺へ話しかけてきた。
「津部君のここ最近の事件解決の功績が認められて、過去の未解決事件ファイルの閲覧が認められるようになりました。サバイブで扱う事件は1年以上前の未解決のままの事件だけですが、それらを見ていただいて、解決できそうな案件がありましたら言ってください」
「ああ、わかったよ」
正直うれしかった。同じチームといっても、やはり俺の立場は犯罪者。そんな俺がまた少し認められて階段を一つ登れたような気がしたからだ。
早速デスクのパソコンで閲覧可能になった過去の事件ファイルの一覧を見てみた。
なんて多さだ!
こんなにもたくさんの事件が未解決のままになっていたのか?表示された一覧には、サイバー犯罪以外にも軽犯罪から凶悪犯罪まで多数の事件が表示されていた。
とにかくたくさんある中で、画面をスクロールし続けながら眺めていると、ある案件に目が留まった。
『2024年 ジパングエア555便 航空機事故』
こ、これってもしかして、先生の旦那さんと両親の?!!
でもなぜ未解決事件に分類されているんだ?それに航空機事故なら国土交通省と運輸安全委員会が管轄のはず。
警察庁にも何か関係しているとでも?
そういえば以前に荒木戸さんがこの事故について、まだ調べていると言っていた。
いったいどういうことなんだ?
俺はこの事件についての詳細をクリックして表示した。
朝感じた悪い予感が、このことだということを薄々気づきながらも。
ーーーーーーーーーーーーー
2024年5月20日月曜日
乗員乗客合わせて87名が搭乗するジパングエア555便の羽田発ハワイ行が、出発して2時間が過ぎた頃、通信が途絶えた。消息を絶った地域を中心に、広範囲に渡って捜索したが機体や破片は見つからなかった。運輸安全委員会の調査では限界があると、政府の各省庁や海外の情報機関へも協力要請をして、広く情報の提供を要請。
それでも情報は集まらず調査が進まなくなり、事故から3か月後の8月に運輸安全委員会は墜落事故と推定し、乗員乗客は全員死亡したと発表した。
ーーーーーーーーーーーーー
何?!機体が見つかっていないだと?!
ということは、先生は旦那さんと両親の
愛する人が無事に帰ってくることを願っていたのに、推測で死を伝えられただなんて、ひどすぎる。
ただ気になるのは、この出来事の後に各所へ情報提供を求めているということだ。
つまり事故以外にもハイジャックなど、事件の可能性も視野に入れて調査していたってことになる。だから警察庁にまで調査依頼が来て未解決事件に載っていたってわけか。
俺は先生の為に何かしてあげたい。
たぶんこのままじゃ、ずっと引きずってこの先も生きていかなくちゃならない。
吹っ切れてもらいたいわけじゃない。区切りをつけてもらいたいんだ。
俺は先生のためにと思って、この件の考察を始めた。
まずはじめに気になるのが、突然の通信遮断だ。
もしエンジントラブルやハイジャックであれば緊急救難信号を出したり、トランスポンダーに緊急コードを入力するだけの時間はわずかでもあったはずなのにそれが無い。
さらに仮に墜落していたとしても、航空機用救命無線機によって、衝撃の感知や入水の感知で自動的に遭難信号が送信されるシステムが備え付けられているはずなのに、どこの受信機にも受け取った形跡が無い。
つまりこれらが意味するのは、あの影響か?
仮にそうだとして墜落したのなら、その周辺に機体の残骸などがみつかるはずだが、みつかっていない。
仮に墜落せずに操縦だけは出来る状態だっとしたら、動力を失った飛行機が取る方法はグライダー航法。
さらに、仮にうまくあれとなっていれば、信号を失った場所から大きく離れた場所に墜落していてもおかしくない。
もっと仮に、もっとうまくいっていたとしたら、、、
、、、
、、、
、、、
いや、まさか。
そんなはずはない。
絶対にない。
だが、ほんのごくごくごくごくわずかだが、ある。
どこかに不時着したという可能性が。
さらにもっと低い確率だが、、、
、、、
、、、
、、、
搭乗者が
まだ生きているという可能性が、、、
、、、
、、、
、、、
ある?!!!
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