第32話 ジャムとアイドル②
俺と角嶋さんはイフ君の無実を証明するため、『立体パラパラムーヴィー』のプログラミングを開始した。
カタカタカタカタカタカタカタ
角嶋さんのタイピングスピードがこの前より早くなっている?
間違いない!この人、成長している!俺の打つクセも把握しながらそれに合わせもしている。なんて人だ!
メタデータの無い写真を、日影の角度と背景から詳細な時間を算出してくれている荒木戸さんのサポートも早い!
抜群のタイミングで写真を送り出している。プライベートでの親密度が影響しているのか?
クソッ!嫉妬しちまうくらいだぜ。
負けていられない。俺だってもっとスピードを上げてやるぜ!
カタカタカタカタカタカタカタ
「ちょっとちょっと、みなさん!何をしているんですか?」
「原課長。あと少しで終わりますから、少し待っていてください」
「角嶋巡査長。僕をのけ者にしないでくださいよ~。ここの課長ですよ~」
原課長はああいっているが、力づくで止めてこようとしてこない。きっと俺たちの事を信じて受け入れてくれてくれているんだ。信頼関係で成り立つ仲間であればあるほど本領を発揮できる。
俺の力の全てを、出し切ってやる!
カタカタカタカタカタカタカタ
楽しい。なんて楽しいんだ。
俺、もっとみんなといたい。
自分の将来の仕事なんて考えたことなかったけど、
俺、警察官になろうかな。
そしたら、もっとこんなことができるんだろ?
あっという間に2時間が経とうとしていた。指がつりそうな疲労感を我慢しながら、乾く眼球を我慢しながら最後まで打ち込み続けて、とうとう最後のキーを押した。
ッターン!!
俺と角嶋さんが最後のエンターキーを押したのは、ほぼ同時だった。
そして完成した。
『立体パラパラムーヴィー』が。
「早速再生してみよう。津部!」
「ああ、じゃあ始めるぜ」
俺は出来上がったソフトで再現された、事件状況3DCGを再生した。
一回目の再生では誰の手がアイドルの衣装をはいでいるのか分からなかった。
「角度を変えてもう一度見てみよう。このソフトはそれが出来るんだから」
そう、3Dにしたことでどの位置からも事件の状況を再現できる。今度は上からの視点に切り替えて再生してみた。
「「「いた!」」」
それは、イフ君の隣にいた友人らしき人物の手が、隠れるように衣装をはぎ取って、イフ君のカバンの中にその切れ端を押し込む姿だった。
すぐさま角嶋さんが犯人の顔を画像認識ソフトで犯罪者データベースと照合するとヒットした。
こいつが真犯人だ!
ガチャ!
取調室からイフ君と4課の人が出てきた。
「だから、俺はやってないんだって!」
「調書も取り終わってこれから送致するから、あとは検察で言い訳してくれ」
まずい!取り調べが終わってしまった!一足遅かったか?!
「4課長!どうです?このソフト良くできていますよね!ぜひ今後の事件捜査に取り入れてみてください。
試しに、今そちらで捜査している事件の『衣装ひっぱがし事件』を題材にしてみました。そしたら、ほら、こんな3DCG映像が出来て、犯人が分かってしまいました。そちらで追っている犯人と同一人物だとは思いますけれども、一応ご紹介しておきます」
俺たちの原5課長が4課長に、作ったばかりのソフトを紹介していた。
「お、お、おい!豆田さんを釈放しろ!」
血相を変えた4課長が、取り調べを終えたばかりの課員に命令すると、犯人扱いされていたイフ君は手錠を外されて、不機嫌そうに警察を後にしていった。
どうやら間に合って無実を証明することができたようで俺たちは胸をなでおろしたが、それ以上に、危うく検察へ送致するところだった4課長はもっとホットしていた。
どうやら原課長は、ずっと俺たちの進捗状況を確認してしていてくれて、4課長への意見具申のタイミングを計っていてくれたようだ。
俺は、なぜかわからないが昔受けた恩を返すために、イフ君に助けてあげたことを名乗り出るようなことはしなかった。もしかしたら、過去の自分を知る人と友達になるかもしれない状況を無意識に避けているのかもしれない。
昔の自分と今の自分は大きく変わって、成長していることを自覚して、昔の自分に戻りたくないとでも思っているのだろうか。イフ君も更生して退院して成長しているのかもしれない。だけど、なぜだかそうした。
そして、俺の周りにいる人たちが俺を成長させてくれたことに感謝した。
その後、真犯人の
帰宅
美佳とくるみは買い物に出かけているようだったが、先生はいた。
俺は今日の出来事を、誰よりも早く先生に話したかった。
きっとまた、いっぱい褒めてくれるだろうと思いながら、リビングに一人でいた先生へと話しかけた。
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