第31話 ジャムとアイドル①
警察総合庁舎
太陽フレア騒動から数日が経った。庁舎建物にかぶさっていたシートや足場は解体され、以前の外観に戻った。
そして、ここサバイブでも通常業務に戻っていた。
デスクへ座ってモニターに映し出されたスクリーンセーバーの模様を眺めていると、懐かしい声で俺を呼ぶ声がした。
「あれ?キョウ君?だよね!退院できたんだ早かったね。って君もまた捕まっちゃったの?」
振り返ると、声の主は少年院時代に同室になったことのあるイフ君だった。
俺は仲間や友達は作らないようにしていたが、彼は何かと俺にかまって友達になろうとしてきていた気さくでいい奴だった。
ある時、彼に助けられたことが一度だけあって、友達になれそうな気がしたが、すぐに部屋を変えられてそれ以来だ。
そんなイフ君が、手錠をかけられ警察官に連れられてやってきた。
「ほら、無駄口を叩くな!こっちへこい」
「だから、俺はやってないんだって」
「わかったわかった。じっくり聞いてやるから」
横にいた警察官に叱られながら、奥の部屋へ押し込まれた。
おそらく取り調べが行われるのだろう。
俺は気になって角嶋さんに聞いた。
「ん?ああ、自分も詳しくは知らないが、個人犯罪専門の4課の人たちが付き添っていたから、SNS上のトラブルか何かだろう」
「もう少し詳しく教えてくれないか?」
「事件ファイルを見ることはできるが、別の課の事件に首を突っ込むのはちょっとあれなんだけどな、、、しかたない。今回だけだぞ」
角嶋さんは荒木戸さんへの告白の一件で俺に恩を感じてくれていたのか、事件のファイルをパソコンで調べて俺に教えてくれた。
「
事件当日は大勢の人込みの中だったため犯人が分からずに取り逃がしたが、掲示板への誹謗中傷や犯行をほのめかす内容の書き込みから家を特定して捜索差し押さえ令状を取得。
踏み込んだ捜査官が家の中にあったカバンの中から衣装の一部が見つかり緊急逮捕に至った。そして、今取り調べ中ってわけだ。
状況証拠だけだが、4課は彼が犯人の線で固まっているようだ」
「そうか、ありがとう角嶋さん」
イフ君が少年院に入った理由は確か、両親の離婚が原因で孤独感にさいなまれて、小学校の窓ガラスを毎晩大量に割って回って逮捕されたからだ。
それがきっかけでやっぱり再婚した両親の元にいるのに、そんな彼がアイドルの衣装を破いたり掲示板で誹謗中傷をするか?
それに証拠となるような衣装の切れ端を持っていたのもおかしいし、さっき『俺はやっていない』と否認していたし。
俺は彼に助けてもらったこともあるし、何とか力になってやりたいが、、、
「津部君。何かたくらんでないですか?津部君の力はよく知っていますが、別の課の捜査にまで口を出すのはご法度ですよ」
「あ、ああ。原課長、迷惑はかけないよ」
「で、どうする?知り合いで助けてあげたいんだろ?津部」
俺が何かすると察したのは原課長だけではなかったようだ。角嶋さんがけしかけてきた。荒木戸さんも興味津々でこちらを見ている。
俺はまず、衣装剥ぎ取り事件のネット上での反応を調べてみた。
アイドルグループ『げっぺりん』のファンはたくさんいて、今回の事は『衣装ひっぱがし事件』として大きな騒ぎとなっていた。
SNS上ではファンが撮影した当時の屋外大規模イベント写真が大量に載せられている。しかし、どの写真もイフ君が衣装をはぎ取ったとされる肝心なところが映っていない。ただ、アイドルの近くにイフ君の姿が映っていたことも確かだった。
ここで俺は一つの仮説を立てた。
イベント参加者がSNSに上げた数百枚の写真を元に加工すれば、犯人が分かるかもしれない。
デジタル画像の中にはメタデータという情報が添付されている。撮影時刻やシャッタースピードや絞り値、それこそGPSの位置情報までもだ。
もし、これらのデータを時系列順に並べて3DCG化し映像化することができれば、事件の全貌が見えるかもしれない。
名付けて『立体パラパラムーヴィー』!
このことを角嶋さんと荒木戸さんに話してみた。
「「やってみよう」」
サバイブは暇な警察官の集団なのかと疑うほどに即答だった。
「ただ、困ったこともある。一部の写真にはメタデータを完全に削除してネット上にアップしてあるのもある。だから、その写真は使えなくなるんだ」
「それだったら私に任せてよ。お昼のイベントで陽が出ているんでしょ?だったら背景と影の角度から時間と場所を詳細に特定できるわ」
さすが荒木戸さん。その道のプロ。相談してみるものだ。これで素材は集まった。
だが、一枚一枚写真を精査していく時間は無い。一気にやってしまうためには自動化が必要だが、そんなに簡単なことじゃない。
まず、画像を顔認証で軸となる人物を決める。これはアイドルでいいだろう。さらにそこから3DCG化して、時間ごとにシーンを並べる。
さらに、写真が無い空間を、人体構造機能や行動心理学を用いてその穴を埋めていかなければいけない。
そんなプログラミングを一人でやったら4時間はかかる。それではイフ君の取り調べが終わって送検されてしまう。間に合わない。どうしたものか。
「さ、始めるぞ、津部。二人でプログラミングすれば2時間ってところか?」
「あ、ああ」
角嶋さんよ、あんた俺が何も言わなくても同じこと考えていたんだな。最高のライバルだよ。
俺は早速角嶋さんの横にパソコンを持っていき、画面がお互いに見えるよう席を並べた。
俺は、イフ君の無実を証明したい思いがあるのと同時に、また角嶋さんと競演できる喜びを感じていた。
今回のスタート合図は俺のリターンキー打鍵音とさせてもらった。
さぁ行くぜ。
準備ができた角嶋さんがこちらへ目を配った瞬間、
俺はそれを力強く弾いた。
ッターン!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます