第23話 ツイストドーナツと司令塔①

 2025年 霞が関 警察総合庁舎


 ズンダが掌握したドローン3000機を都内の空中に停滞させたまま、13億円分の暗号通貨を用意できなければテロ攻撃を仕掛けると脅迫してきた。指定したタイムリミットの15時まであと、5時間。

 俺が3年前の事件の全貌を話している間に、政府から緊急声明が発表され、都民は建物内へ避難するようにと指示が出た。

 さらに消防と自衛隊にも協力を要請して、いつでも出動ができるよう、待機命令が下った。


 警察本庁の大会議室では、サイバー局捜査1課を中心に事件捜査本部が設立され、大勢の警察官が捜査にあたっていたが、まだ何も手掛かりを掴んではいなかった。


 捜査本部とは別にここ、サバイブでも原課長を中心にして事件を追っていた。


「ということは、3年前の事件で捕まった津部君には共犯者がいて、そいつが今回の容疑者であるということですね。さらに津部君は銀行以外にもお金を盗み出した先があったということですね。

 もう一つの窃盗先であるネットカジノは後回しにして、今は容疑者のズンダを逮捕してテロをくい止めることを最優先に考えましょう」


 原課長が俺の話をまとめると、角嶋巡査長が口を開いた。


「津部の話を参考に、聞くのと同時にこちらで色々調べてみました。結論から申し上げますと、犯人を特定しました」


 何っ?!こんなに早く?やはり話して正解だった。警察の力を見くびっていた。いや、仲間を信じていなかっただけか。


「特定方法はまず、ズンダからツブアンへのファーストコンタクトであるDMの履歴をシャベッター社から取り寄せました。解析した結果、通信履歴からある男の名前が浮上しました。

 一方、テレビで生中継されたドローン爆発を分析した結果、あれだけの過電流をバッテリーへ一気に流すのはソフトだけでは無理だと思い、ハードの設計から関わっている人物ではないかと推測しました。

 そして、あの配達用ドローンを製造した業者の、開発技術者の名簿を取り寄せました。

 その結果、取り寄せた名簿から3年前にDMを送った男の名前が見つかりました。容疑者の名前は、寸田すんた紋太もんた47歳男性。免許証のデータから住所も出ました」


 俺が話をしていたあの短期間でそこまでしていたのか。やっぱりあんたすげぇよ、角嶋さん。


「よくやった!角嶋巡査長!すぐに事件捜査本部へ情報提供しましょう。

 ただ、あれだけのドローンの数だ、きっと飛行ルートはプログラムされていて、犯人が捕まっても解除しない可能性がありますね。

 犯人確保よりもドローンの無力化を先にしたいところですが、、、」


 確かに原課長の言う通りだ。ズンダって野郎は行動が読めない。追い詰められたら何をしでかすか分かったもんじゃない。

 先にドローンを何とかしないといけないが、ドローンに組み込まれたICチップからハッキングされているとなると、俺がソフト面のプログロムを攻撃したところで太刀打ちできねぇ。

 完全にズンダの思う壺だ。


「原課長!私に案があります!」

「荒木戸係長。何ですか?」


「実は、この前の休日に津部さんと会って、彼が作った大気の流れを推測するシミュレーションプログラムを触らせてもらったんですけど、それに不思議な空気の流れを発見したんです。

 後日、詳しく調べてみたら、なんとその場所に現実世界で竜巻が発生してたんです。つまり、津部さんの作ったプログラムは、竜巻の発生予測プログラムでもあったんです。しかも、6時間先までの詳細な場所と時間を予測できるほど高性能だったんです。

 もし、ドローンを竜巻の発生する予定の場所まで誘導することができれば、一度にすべてのドローンを破壊させることができるかもしれません」


「何っ!休みの日に荒木戸係長といたのか?津部!」

「ああ、たまたま洋菓子店の前で会ったんだ。角嶋さん」

「なんだ、偶然か」


 角嶋さんはどこに食いついてんだ?

 まあいい。そんなことより、俺が作ったあのプログラムはそんなに凄いポテンシャルを秘めていたのか。あれを作るきっかけをくれた、くるみに感謝だぜ。


「問題は、どうやって3000機ものドローンを一か所に集めるかですね。

 それは僕たちで考えますから、荒木戸係長は関東近郊で今後5時間以内に竜巻が発生する場所を特定する作業に入ってください」

「了解しました原課長。これより科捜研のスーパーコンピューター富溪ふけいの全面使用許可を取って、解析に入ります」


 竜巻で一気にドローンを破壊するとはいい案だ。しかし、原課長が言ったように、ドローンを集める方法をどうするか、、、

 俺を負かした事のあるズンダとは、二度と接触したくないと思っていたが、今の俺にはあの時いなかった仲間がいる。

 今の俺はあいつに負ける気がしない。これは決しておごりなんかじゃない。過去の自分との決裂をするためにも、向かい合わなきゃいけない相手。


「原課長。俺にやらせてくれ」

「津部君!大丈夫ですか?」


「ああ。やってみるよ。ただ、俺が、何をしようと見守っていてくれ。絶対にみんなを裏切ったりはしないから」

「わかりました。君を信じましょう。任せます!」


 原課長の言ってくれた言葉にまた、水があふれ出そうになったが、グッとこらえた。この事件が終わるまでは、泣いてなんかいられない。

 俺は原課長から、全てのホームぺージへのアクセス権をもらい、3年前に使用していた暗号通信匿名チャットアプリをPCにインストールした。


 そして、その接続先を、ズンダにセットをした。

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