第22話 クレープと裏切り④
さらに3日後
まだお祭り騒ぎは続いている。
俺は事件の真相を何も知らないワイドショーやネット民の、無知で浅はかな推理をあざ笑うように見ていた。
そんな時、俺は返金する前にもう一度拝んでおこうと、戦利品である30億円の口座残高を確認してみると、1億円足りないことに気づいた。
ど、どういうことだ?!
確かに昨日までは30億円あったはずだ、でもなぜ?
口座番号やパスワードは厳重に保管している。俺のパソコンへ物理的に近づきでもしなければ盗まれるなんてことは絶対にない。
なぜだ?!そうだ!一人いた!俺のパソコンに近付いたヤツが!
あの女子高生だ!
そうだ間違いない。喫茶店で会ったあの時、俺が彼女との間接キッスに動揺しているすきにパソコンを覗き見るか、何かを仕掛けたに違いない。
でもどうして俺が30億を持っていると知っていた?
もしかして、、、あいつが、、、ズンダ?!
始めから俺をはめるための罠だったのか!ゆるせねぇー!
ツブアン:話がある!
ツブアン:見てるんだろ!
ツブアン:なんとか言え!
返事が無い。
俺は残りの29億円分の口座パスワードを変更してから、家を飛び出して走ってクレープ屋へ向かった。
店頭で接客していたのはオーナーの老夫婦だった。
「バイトの女の子はどうした?」
「ん?ああ、あんたも早紀ちゃんのフアンの子?彼女、突然辞めちゃったのよ。人気があって売り上げも良かったんだけどね。残念だよ。
どうやらお父さんの仕事の都合で学校も辞めて田舎に引っ越したんだってさ」
逃げられたっ!やっぱりヤツがズンダだったんだ!
田舎に引っ越しったっていうのも絶対に嘘だ!
どうする?まずはヤツの名前だ。ヤツの個人情報を見るにはこのクレープ屋をハックして履歴書を見るしかない。何か手掛かりがあるはずだ。
俺は家に帰って老夫婦のクレープ屋のシステムに入り込んだ。店だけでなくセキュリティも甘々だ。簡単に侵入できた。
難なく保存してあったヤツの履歴書を確認した。
名前は、、、
ま、まさか父親の名前は、、、
やっちまった。完全に誤解だった。
それどころか、俺、彼女になんてことを、、、
きっとネット情報を鵜呑みにした奴らが彼女の父親を犯人と決めつけて、職場である輪賀市立中学校や家へ、リアル突撃して迷惑を掛けたのだろう。
そして追い詰められて、、、引っ越した。
燃料投下と言って俺が掲示板へ書き込んだことがきっかけで。
そうこうしていた内に、また1億円を盗まれてしまった。
え?!まだ終わってない!
なぜだ?!パスワードは全て変更したはずだ。
じゃあ犯人は?
俺は自分のパソコンを完全スキャンした。すると一つの不審なファイルが検出された。調べてみるとそれは、バックドアウィルスだった。
このウィルスが俺のパソコンに感染した日付と時間は、、、ズンダの特製FDを受け取って接続テストした時だ!
やはりズンダの仕業だった。俺はズンダの作り上げたあの特製FDを見て油断していた。ヤツを信じてしまっていた。
俺は別のクリーンなパソコンを使って、警察からバレてしまうことを覚悟で残りの28億円を母親の銀行口座へ移した。
ズンダ:あーあ。終わっちゃったヌ
ツブアン:どういうことだ?約束が違うぞ!2億円を返せ!
ズンダ:やっぱ、報酬として半分もらうこととしましたン
ツブアン:ふざけるな!
ズンダ:残りの13億早くチョーダイナ
ダメだ話にならない。
きっと明日には警察がここへやってくる。それまでに残りの2億を何とかしたい。
おそらく28億円を返したところで、経理課長が気づかないのも悪いと、責任を追及されたり汚名を受けたままになってしまうだろう。
それにあのお姉さんも、、、
全額返さなきゃ意味が無い。
俺は必至で金のつくり方を考えた。そして一つの賭けに出た。賭場だ。本当に賭けをするわけではなく、襲う計画だ。
今はネットが普及して気軽にネットカジノを楽しめるようになった。しかし法整備は間に合っておらず、グレーゾーンの状態が続いている。
海外にサーバを置いた反社会的組織が運営する裏ネットカジノサイトをハッキングしてお金を盗み出す計画だ。
俺は死に物狂いで抜け穴を探し続けた。
6時間後
なんとかセキュリティの甘いサイトを見つけ出し、3億円を盗み出すことに成功した。しかし、急ごしらえの計画は足場固めが緩く、いつばれてしまってもおかしくない状態だ。
もし、これがバレてしまえば、警察に捕まるより悲惨なことになるだろう。
だからあえて警察に捕まりに行く。かくまってもらいにいくようなものだ。
その前に、2億円を母親の口座へ移して返却用の30億円を作った。
それから、残りの1億円はネットの誹謗中傷に怯える人たちのための支援団体へ、匿名で寄付をした。
せめてもの罪滅ぼしだ。
最後に警察が乗り込んでくるそのギリギリまで証拠を改ざんして、全て俺一人で計画・実行したかのように見せかけた。
バーン!
家の扉が壊されて警察官がなだれ込んできた。
「動くなー!警察だー!なんだ?子供だけか?親はどうした?」
「すべて俺一人でやった。お金は1円も使ってない。ここにある」
こうして事件の幕は下りた。
俺はズンダを憎んだが、奴も俺と同じ考えだったと気が付いた。悪い事をしているヤツからお金を奪う。
だから俺は報いを受けたのかもしれない。
結局奴は俺の1枚も2枚も上手だった。それに素性は分からずじまいだった。もう二度と関わりたくはない相手だ。
最後にもう一度だけ彼女の作ったクレープを食べたかった。
あの味がイマイチだった理由は、オーナーが仕入れていた素材が安いものばかりで粗悪品ばかりだったからだ。
いくら作り手がよくても素材が悪ければイマイチという評価になってしまう。
こんな偉そうなことを言っている俺は、作り手も素材も悪いどうしようもない奴だが。
俺がなぜ彼女の為にここまでしたかというと、これが俺の初恋だったからだ。自らの傲慢さと幼さで散った恋。自業自得だ。
そしてもしかしたらこの後すぐ、2番目の恋が始まっていたのかもしれない。
警察での取り調べや裁判が終わり、連れられてきた少年院の面談室で待つと、その人が来た。
「少年番号K1009番。あなたの名前は・・・津部杏太郎君ね。
ほら、背筋を伸ばしてこちらを見なさい。
私はあなたの担当指導官、
越野恵梨香です。
よろしくお願いします」
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