第20話 クレープと裏切り②
2022年
「
あの
俺が物心ついた時からこんな調子だ。人付き合いも金銭感覚も狂ってて、俺がどこで何をしようとお構いなし。
育児を放棄したネグレクトってやつだ。
だが、俺としてはそっちの方が自由にできて楽でいい。学校にも行かずにずっと趣味のパソコンを触っていられるからな。
そのおかげで、普通の人にはない特殊な知識も身につけることができた。いわゆるハッキングってやつだ。
親から食事や物を買ってもらえなくても、それくらいは自分で稼ぐことができる。
このパソコンさえあれば。
バカな大人たちを騙せば、いくらでもお金を奪える。
昨日は、SNSを使って未成年の少女になりきった。カモの家まで行くタクシー代が欲しいと嘘を言って簡単に電子マネーで金をもらうことができた。
その前の日は、ネットに上がっている他人の書いた小説を別の小説投稿サイトに乗せて広告収入を得ているカモからブン獲った。
どちらのカモも、自分のやっている事の後ろめたさから、被害届を警察に出すようなことはしない。
こんな楽に稼げるってのに、学校なんかで学ぶことなんか一つもありゃしない。
俺はこれからも自由に楽しくやらせてもらうぜ。
「今日も来てくれたんだ。ありがとね。いつもの『ミックスMAXクレープ』でいい?」
「ああ、それで」
ここは家の近くにある、行きつけのクレープ屋。ほぼ毎日通っている。そしてほぼ毎日、一番高い商品を選んでいる。
お金は無くなればまた誰かから奪えばいい。そうやって経済は回っているんだろ?
ここの店のクレープが特段うまいってわけではない。ここの店のバイトのお姉さんが、、、これ以上は言えねぇ。
あのかわいい笑顔に金を払っていると言ってもいい。エプロンの下に高校の制服を着ているから、17歳前後だろうか。
たぶん調べればすぐに個人情報を探せるだろう。でも、彼女に対してはしない。なぜかって聞かれても、俺にもよくわからん。なんか卑怯な気がするから。
「クレープ屋さんの私が言うもの変だけど、君、ちゃんとご飯食べてる?毎日甘いお菓子ばっかり食べてたら、体壊しちゃうよ?はい、これあげる。私の晩ごはんのおにぎり。自分で作ったの。サービスよ」
「どうも」
断る理由が無かったからもらったが、胃袋が求めている右手のクレープを先に食べるか、手作りで温かくて無骨な左手のおにぎりを先に食べるか、
俺は悩みながら家へと帰った。
結局、おにぎりを先に食べた。人がにぎった物を口にするなんて何年ぶりだろうか。胃袋じゃなく、どこか違うところが満たされた気がした。
指に着いた米粒を最後まで食べきった時、俺のシャベッターアカウントに一通のDM(ダイレクトメッセージ)が飛んできた。
俺が好き勝手つぶやいているSNS、シャベッターのフォロワー数は100万人を超えていた。
いつもは、知らない奴らからのDMは読んでも返信はせずに無視していたが、これはそうもいかなかった。
”なぁツブアン。オイラと一緒に遊ばねェ?オメェのシャベーリをいつも見ているから、それなりに能力は分かってるヨ。
オイラは道具屋ダ。どんな機器も用意できるゼ。精密機器だって作れるゼ。興味があったら返信しろヤ。
報酬はいらないヨ。ただ面白いことがしたいだけなんだナ。
オイラの名前はズンダ。よろしくピ”
なんだか面白そうなヤツだ。俺もそろそろ大きな遊びをしてみたいと思っていた。それにいつも偉そうな態度の大人たちへの復讐もできる。
状況がヤバくなって、いざとなれば逃げればいい。こいつがどれほどの腕を持っているかは分からんが、利用して遊んでみるか。
俺は早速、ある遊びを思いついた。
輪賀市に古くからある地方銀行である輪賀銀行では、未だにFD(フロッピーディスク)という記録媒体を使用している。
給与や買掛金の振り込みのため、企業がデータ入力したFDを銀行へ持っていき、そこに入力されたデータを元にお金のやり取りが行われている。
発売から40年以上も経った2022年の今も、FDは現役で使われているから驚きだ。
今回はそこを突く。
まず、道具屋のズンダにFDの形をした超小型パソコンを作らせて、俺がそこにハッキングのプログラムを書き込む。
そのFD型超小型PCが銀行のパソコンに挿入されると、本来の機能である記録媒体としての役割を果たす一方で、裏では俺がそのスキにPC機能を起動して遠隔操作によって、大金を引き出すって算段だ。
俺のポリシーとして、金を奪うのは悪い奴らからだけだと決めている。
今回のこれは遊びだから、もちろん1週間もしたら獲ったお金は全額返金する。これでたくさんの大人たちを困らせて遊ぶことができる。
俺はこれに作戦名を付けた。『輪賀バンク
『WW計画』の全貌をズンダへ伝えると、快く乗ってくれた。そして、小型PCが出来上がるまでの1週間で、俺はそこで走らせるプログラムを書いた。
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